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映画「南山の部長たち」

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2020-02-07

玄海灘に立つ虹

今年の旧正月の連休に合わせて公開された「南山の部長たち」。イ・ビョンホン主演で、朴正煕大統領暗殺までの40日の動きを追った映画。結果はみんなが知ってる事件なだけに、微妙な内面の変化が描かれていた。


監督は、「インサイダーズ/内部者たち」のウ・ミンホ監督。これもイ・ビョンホンが主演だった。


イ・ビョンホンが演じたキム・ギュピョン(김규평)のモデルはキム・ジェギュ(김재규)。1979年10月26日、朴正煕大統領を暗殺した人物。なので映画は、なぜ、キム・ギュピョンは大統領を暗殺するに至ったのか、というのが中心に描かれている。

イ・ビョンホンは昨年12月公開の映画「白頭山」でも主演。この冬大活躍。


原作は、同名のノンフィクション。読んでみようと思って本屋さんに行ってびっくり。880ページ! 著者はキム・チュンシク(김충식)という記者で、もとは1990年から東亜日報で連載。1992年に単行本として出版して、日本でも翻訳出版。「実録KCIA-南山と呼ばれた男たち」というタイトルで。ソウル特派員の必読書だそう。


映画では、このあたりの歴史を全然知らないと、単語がちょっと難しいかもしれない。略語も多く、例えばチュンジョン(중정)といえば、中央情報部(중앙정보부)。日本ではKCIAという。

そもそも、南山といえば、私が所属している東国大学が、南山のふもとにあって、観光客の間でもNソウルタワーのある山として知られていると思う。韓国で南山といえば、中央情報部、KCIAを指すことも。南山にあったから。


ということで、タイトルは中央情報部、KCIAの部長たちということ。「たち」というからには、イ・ビョンホン演じるキム・ギュピョン以外にも部長が出てくる。キム・ギュピョン以前の部長として登場するのがクァク・トウォン(곽도원)演じるパク・ヨンガク(박용각)。このあたりの史実はよく知らなかったが、モデルとなったのはキム・ヒョンウク(김형욱)という人物。実際に朴政権を批判して1979年10月にパリで失踪。要するに消された。映画を見終わってむなしくなるのは、イ・ビョンホン演じるキム部長にしても、クァク・トウォン演じるパク部長にしても、南山の部長たちは結局、大統領の使い捨てのコマに過ぎなかった、ということ。


映画を通して浮かぶキーワードとしては、疑心暗鬼、裏切り、嫉妬、保身といった言葉で、殺される側の大統領も、殺す側のキム部長も、どうやってよりよい国家を作るか、みたいな「正義」はあまり感じられず、互いに信じられない不安な中での生き残りをかけた権力争い。


結局は、すでに歴史として明らかなように、キム部長は大統領を暗殺した後、権力を握ることはできず、翌年死刑。実際に権力を握ったのは、全斗煥。そしてまた軍事独裁が続く。日本の戦国時代みたい。織田信長が朴大統領だとすれば、キム部長は明智光秀、全斗煥が豊臣秀吉に見えた。明智光秀が織田信長を本能寺の変で殺したのに、天下を取ったのは豊臣秀吉。


韓国は実際にあった事件を映画化することが多い。そのたびに史実はどうだったのか、ということにも興味を持つようになる。この原作の880ページの本もがんばって読んでみたい。

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