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ドラマ『朝鮮退魔師』打ち切りがもたらしたもの

#マル秘社会面 l 2021-03-31

玄海灘に立つ虹


朝鮮時代を舞台にしたSBSのドラマ『朝鮮退魔師』が歴史を歪曲し、中国風の小道具や衣装を使ったため、視聴者の反発を買い、結局2話で打ち切られてしまいました。西洋の神父を朝鮮の王子がもてなすシーンで中国風の小道具で埋め尽くされた中華風の家屋で、月餅(げっぺい)とピータン、中国餃子を食べ中国酒を飲むシーンが登場し、これが視聴者の逆鱗にふれ、放送中止を求める大統領府への国民請願が1日で署名数13万人を突破しました。


SBSは26日、「地上波放送局としての責任を感じ、『朝鮮退魔師』の放送打ち切りを決定した」と発表しました。このドラマすでに全体の80%の撮影を終えていました。それなのにわずか2話で打ち切り、その影響は未だに続いており、この事態をめぐりいろいろな意見が出ています。

これまでにも出演者の不祥事や、視聴率の低迷、視聴者の反発でドラマが当初の予定よりも回数を減らして放送されることはありましたが、わずか2話で打ち切られたのは韓国のテレビドラマ史上初めてのことです。サムスン電子・LG生活健康など大手スポンサー企業がCM撤回の意思を明らかにしたのも廃止決定の重要な理由になりました。

そして一番の理由はこのドラマが、これまで積もりに積もってきた反中感情を爆発させる導火線になってしまったことです。今回の事態で一番先頭に立っていたのは20-30代でした。大衆文化評論家のキム・ソンス氏は「20-30代の積極的な行動力と意思表明に40-50代が同調していっそう波及力が強まった」と話しています。

朝鮮日報には20代の若者たちの反中感情について興味深い分析がのっていました。

60年代に生まれた今の50代、いわゆる「586世代」が大学へ通った80年代のキャンパスには外国人は稀だった。反米・反日感情が大学街を支配したが、歴史認識から始まっただけであって、暮らしの中で実際に被害に遭ったことはない。逆に、このところ20代の青年らの間で広がっている反中感情は、日常の接触を通して積もり積もったものという点で差がある。2019年の時点で、韓国に留学している外国人大学生・大学院生はおよそ14万2000人。このうち中国人は、全体の半数に当たるおよそ7万人、在校生の1割は中国人という大学もある。

一方でグローバル化時代に民族主義を前面に押し出す盲目的な反中・嫌中には用心すべきだという指摘もあります。K-POPや韓国のゲーム、韓流ドラマが世界で称賛され、韓国のエンターテインメント企業には中国をはじめとする多国籍資本の投資が増えている状況にあるからです。 

全北大学社会学科のソル・ドンフン教授は「誤った中国の主張を事実通り正す努力とは別に、感情を前面に出して中国を非難すれば、逆風にあうかもしれない」と語っています。

また一部から、今回のドラマ『朝鮮退魔師』の作家に対して「朝鮮族疑惑」を持ちだす声が上がりました。中国資本と頻繁に仕事をしており、中国関連のコンテンツを多く生産した痕跡があり、かつての作品に朝鮮族のキャラクターが登場している、というのがその理由です。


これこそまさに人種差別的な発想だと、テレビコラムニストのイ・スンハンさんがハンキョレ新聞に書いています。


さらにイ・スンハンさんは 作品に対して提起される問題について放送局が積極的に話し合い、時代的合意を導き出す作業を行っていたならば、今回の論争も「ファンタジー時代劇における歴史再現の倫理」についての生産的な議論へとつながったかもしれない。 制作陣はなすべき検討をせず、世論はなすべき自制をせず、マスコミはなすべき指摘をせず、放送局はこれまでに解決しておくべきだった課題をそのままにしていたため、対話ではなく力と資本の論理が答えという寂しい結果を導き出した。


と今回の事態について分析しています。これまでにもファンタジー時代劇と言われるものは多数制作されてきました。歴史的事実に作家の想像力を加えて物語を展開するのはよくあることです。ではなぜ「朝鮮退魔使」はダメだったのか。


釜山日報の記事にはこんな分析がありました。


作品で扱う歴史的な事実が現実に少なからず影響を与えたり、国民感情に反する内容を扱った場合だ。同じ作家の前作「鉄人王后」はフュ―ジョンコメディとはいえ、世界記録文化遺産に指定されている朝鮮王朝実録を「ゴシップ記事」と表現し批判を受けた。320億ウォンが投入された「朝鮮退魔使」が廃止に至ったのは歴史歪曲に対する視聴者の不満が累積されていたと言える。今後はたとえフュージョンドラマでも実際の歴史と実存した人物を扱う作品なら、徹底した事前考証が必要だという意見も出ている。


日本でもいろいろな時代劇が作られ、実在の人物が登場する場合、その子孫から抗議の声が上がることもあります。しかし歴史を新たな視線で描くことはそれなりの意味を持ち、NHKの大河ドラマ「麒麟が来る」では明智光秀を新たな視線で描いていました。結局、視聴者の感情に沿った形で描くことが大切なのではなく、ドラマに視聴者を納得させるような力があるかないかの問題なのではないでしょうか。

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