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全州国際映画祭

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2022-05-05

玄海灘に立つ虹

ⓒ JEONJU International Film Festival 

今日は特定の作品ではなく、全州国際映画祭のイ・チャンドン監督特別展についてお話ししたいと思います。全州映画祭は釜山映画祭に次いで、韓国で2番目に大きな映画祭ですが、今年は4月28日から5月7日までということで、私も開幕翌日から参加しています。韓国はソーシャルディスタンスの制限がなくなって劇場の座席も全席座れるようになったんですが、それでも週末はほとんどチケットが売り切れという盛況ぶりでした。


イ・チャンドン監督は韓国を代表する監督で日本でもファンが多いと思いますが、私も大好きな監督で、今回の特別展はチケット争奪戦の中でがんばって『グリーンフィッシュ』と『ペパーミント・キャンディー』を見ました。どちらも何度も見ている映画なんですが、スクリーンで見たのは初めてでした。

イ・チャンドン監督は『グリーンフィッシュ』で1997年にデビューしたので、今年でデビュー25年ということですが、長編は6本作っていて、今回は最新作の短編1本と、フランスの監督がイ・チャンドン監督について描いたドキュメンタリー映画の計8本が、特別展として上映されました。


私はソウル郊外のイルサンというところに住んでいるんですが、実は『グリーンフィッシュ』にイルサン新都市の開発について出てきた、というのが、イルサンに住んでみようかなと思ったきっかけです。ハン・ソッキュ演じる主人公のマクトンの家がもともとイルサンにあるんですが、兵役を終えて戻ってきたら新都市開発が始まっていて、駅に降りて戸惑う様子が出てきます。開発で周辺に追いやられた側を描く、というのがイ・チャンドン監督らしいなと思います。イ・チャンドン監督の映画は見終わった後に深い余韻が残るんですが、『グリーンフィッシュ』もそうでした。監督自身、「簡単に伝わるメッセージは大きな力を持ちえないと思う。劇場を出た後、長く観客の中に問いかけが残るような、人生と映画のつながりを感じられるような経験をしてほしい」と話していました。


映画祭のだいご味はなんと言っても監督や俳優の話を直接聞けるということなんですが、『グリーンフィッシュ』の後のトークは監督のほか、出演俳優のムン・ソングン、チョン・ジニョンも来ました。ムン・ソングンは主人公マクトンのボス、チョン・ジニョンはマクトンの兄の役でした。ムン・ソングンさんは映画界の重鎮のようなイメージもありますが「出演俳優としてというよりも、監督の友人として来た」と話していました。というのも、イ・チャンドン監督はもともと小説家で、映画監督になるよう勧めたのがムン・ソングンさんだそうです。ムン・ソングンさんは「人間の多面性を描くような深い表現のできる人だと期待して監督になるのを勧めたのが、ぴったり当たってうれしかった」と話していました。ムン・ソングンさんのおかげでイ・チャンドン監督が誕生したというのを今回初めて知りました。


『ペパーミント・キャンディー』は以前このコーナーで紹介したんですが、2000年1月1日に公開された作品で、監督はミレニアムを意識して作ったと話していました。1999年から1979年に遡っていく映画でしたが、未来を考えるうえで、過去を遡ったんですね。ソル・ギョング演じる主人公のキム・ヨンホは光州事件や民主化運動、IMF通貨危機を経験するのですが、監督は「韓国社会を擬人化したのがキム・ヨンホ」と話していました。

キム・ヨンホは光州事件で人生が変わったのはかわいそうなんですが、だけども一方でその後の自虐的な人生は彼の選択でもありました。監督は「特に20代前半の若者たちに見てほしいと思って作った」と話していましたが、私はちょうど20歳の時にこの映画を見て、それから20年たって、この映画にどれほど影響を受けたのかは自分でも分かりませんが、少なくとも人生は選択の連続だと自覚しながらこの20年を過ごしたなと思います。今回初めて見たという20代の観客もたくさんいたようですが、作品も、監督の言葉も響いただろうと思います。


私はコロナ禍でも映画館に通い続けたんですが、本当にがらがらで、映画の未来が心配だったんですが、今回の全州映画祭の盛況ぶり、特に若者の多さに希望を感じました。映画館にも少しすつ観客が戻ってきたらいいなと思います。


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