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ノンフィクション『韓国の「街の本屋」の生存探究』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2022-07-21

玄海灘に立つ虹


〇本日ご紹介する本は、ハン・ミファさんのノンフィクション『韓国の「街の本屋」の生存探究』です。韓国のタイトルは동네책방 생존 탐구で、日本語版は今年5月に出たばかりです。私は東京の神保町の韓国ブックカフェ「チェッコリ」で見つけて買いました。日本語版はチェッコリを運営している出版社クオンから出ています。著者のハン・ミファさんは出版評論家で、様々な角度から韓国の街の本屋、そして出版事情について書いた本です。


〇私は実は新聞社を辞めて韓国に留学する前、1年くらい韓国で過ごして戻ったらチェッコリ神戸店を開く、と言ってたほどで、そのままずるずる韓国にいるので実現してないですが、本屋とかブックカフェにすごく興味があって、手に取りました。

とにかくたくさんの韓国の街の本屋が紹介されているので、早く行ってみたくてうずうずしています。そもそも街の本屋って何かというと、韓国でいえば、教保文庫など大型書店ではない、小さな本屋、韓国では「独立書店」とも呼ぶようです。映画も商業映画に対して独立映画と言いますよね。独立書店が韓国で増え始めたのは2008年ごろからです。


〇日本はもともと街の本屋がそれなりにあった気がするんですが、韓国は少なかったですよね。本を買うとなると、大きな書店に行くという感じでしたが、韓国で2008年ごろから増えてきた独立書店というのは、ただ小さな本屋というのでなく、独自性を出した個性ある本屋が多いようです。

この背景には、逆説的ですが、みんなが本を読まなくなったというのがあります。本を読むのが昔に比べて特別なことになったということです。オンラインで簡単に買えるようになったからこそ、本好きはオフラインで個性的な本屋に訪ねていく。著者のトークや読書会など本にまつわるイベントをやっているところも多く、出会いの場でもあります。本を体験しにいくというのに近い気がします。

私が行ったことがあるのは、俳優のパク・ジョンミンが営む本屋、ハプチョンにあって、책과 밤, 낮(本と夜、昼)という名前のブックカフェでしたが、最近調べたら去年閉店したみたいです。行ったらパク・ジョンミンに会えるかなという期待と、パク・ジョンミンチョイスの本を読む楽しみがあったんですが、やっぱりコロナ禍で経営が厳しくなったみたいですね。


〇本のタイトルに「生存探究」という言葉が入っているように、街の本屋の経営の難しさについても率直に書かれています。経営に行き詰まった様々な例を挙げていますが、夢を描いて始めるけども、現実的に収入にはつながらない場合がほとんどのようです。見るだけ見て買わずに帰る人も多いので、カフェとかバーを併設する、イベントをやる、そこにまた人件費がかかる。私も経営する側を考えたことがあるので、とても参考になりました。

読んでいてポイントだなと思ったのは、「兼業」です。本屋だけをやって収入を得るのは難しく、何か他のことと一緒にやることで相乗効果を生む可能性があるようです。例えば、統営(トンヨン)の「春の日の本屋(봄날의 책방)」は出版社「南海の春の日(남해의 봄날)」が営んでいるんですね。そうすることで、地元の企業や芸術家をサポートするプロジェクトや本屋のコンサルティングという新しい仕事が入ってくるようになった。ただ出版社を営んでも本を通してしか社会との接点を持ちにくいと思いますが、本屋という窓口を持つことで、人と人のネットワークが広がるようです。

これはまさに神保町のチェッコリもそうですよね。出版社クオンが韓国ブックカフェを営むことで、日本における韓国文化の発信地のような役割を果たすようになった。

統営は一度行ってみたいと思っていたので、この「春の日の本屋」も訪ねてみようと思います。この本は韓国旅行の楽しみを増やしてくれるきっかけになるとも思います。この本屋があるからここへ行ってみよう、あるいはここに行くから、この本屋にも寄ってみようというふうに。


〇そしてこの日本語版の特典は、日本の出版ジャーナリスト、石橋毅史さんの解説がついているという点です。韓国の街の本屋の状況はこうだけど、日本はこう、というふうに比較されていてとても分かりやすいです。ぜひ手に取って読んで、韓国の本の楽しみ、旅の楽しみを増やしてほしいなと思います。



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