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映画「サムジングループ英語TOEICクラス」

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2020-12-04

玄海灘に立つ虹


〇今日はせっかく久々に韓国に来られたので、最近公開された映画でおもしろかったものを紹介したいと思います。ちょっとタイトルが長いですが「サムジングループ英語TOEICクラス」。10月下旬に公開して、11月半ばの時点で観客数150万人くらいなので、コロナの中ではかなりのヒットです。イ・ジョンピル監督、主演はコ・アソン、イ・ソム、パク・ヘス。コ・アソンはポン・ジュノ監督の「グエムル」の時の子役で記憶している日本の方も多いかもしれないですが、もうすっかり大人、女性社員の役です。


〇映画の背景は1990年代です。サムジングループという大企業に勤める主人公3人は、入社8年目ながら「お茶くみ」など雑用係のまま。実務能力は高いのに、高卒という理由で出世できない。そんな高卒女性社員たちにチャンスが回ってきます。TOEICの試験で600点を超えれば代理に昇進できるということになり、みんなでTOEICの勉強を始める。タイトルからもそういう映画かと思っていたら、ちょっと違ったんですね。コ・アソン演じるイ・ジャヨンがサムジングループの工場で排水を垂れ流しているのを目撃し、主人公3人が中心となって会社の不祥事を暴いていくという話でした。そこに英語が絡むのは、不祥事を暴くにあたっての資料が英文で、3人を含む高卒女性社員が一丸となって辞書片手にその資料を解読していくんですね。


〇もちろん会社を敵に回すのは非常に危険なことで、何度も困難にぶち当たりますが、体当たりでなく頭を使って挑んでいくのが見ていて爽快でした。代理になりたいならおとなしく見過ごしたらいいんですが、排水によって工場近隣地域の人たちが健康被害を受けているのに気付いて、黙っていられなくなるんですね。


〇映画は実話というわけではないんですが、実際にあった出来事がモチーフにはなっていて、90年代に大企業で開かれていたTOEICクラス、91年に起きたドゥサン電子がナクトンガンという川に排水を垂れ流した事件だそうです。


〇90年代の韓国の様子は私はよく知らなかったこともあって、へえ、そうだったの?と思うこともあったんですが、高卒女性社員の制服が他の大卒の社員とは違ったみたいですよね?映画のなかでそういう風に出てきたので周りの韓国の人に聞いたら、そうだったそうだった、と言われました。90年代の記事を調べてみると、なんで男性は制服がないのに女性社員だけ制服を着るのかという疑問を投げかける記事もありました。「女性はお茶くみ」みたいな文化って、実は日本では今もあるんじゃないかなと思います。日本の新聞社にいた時、女性記者が、ということはないんですが、例えば地方の支局では記者でなく現地採用の女性スタッフがいて「お嬢さん」と呼ぶおじさん記者がいて、朝出社したらコーヒーを入れてくれたり、ということがありました。韓国ではミートゥー運動を経て、そういう文化もなくなってきている気がして、こういう映画が出てくるのも、かつてこうだった、と距離を置いて語れるようになったんだろうと思います。


〇不祥事を暴くというとたいそうな気もするんですが、すごくリズムカルな元気になる映画です。コ・アソン自身も、イ・ジャヨンを演じたことで明るいエネルギーをもらったとインタビューで語っていました。特に近年は女性監督や女性主演の映画が増えていて、これは監督は男性ですが、高卒で女性ということを理由に差別的な待遇を受けていることに立ち向かっていくという、女性のパワーを感じる映画でした。自分は末端社員だからと縮こまってないで、自分の仕事と会社にプライドを持つ主人公たち。長引くコロナでうつうつとしている人にこそ見てほしいなと思います。日本ではちょっと先になるとは思いますが、上映予定とは聞いていますので楽しみにお待ちいただきたいと思います。

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