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映画「自由が丘で」

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2021-03-05

玄海灘に立つ虹


〇今日ご紹介する映画は、少し前の作品ですが、ホン・サンス監督の「自由が丘で」。2014年の作品で、主演は、加瀬亮です。「ミナリ」という映画で今話題の女優のユン・ヨジョンも出演しています。ユン・ヨジョンは今アメリカで受賞ラッシュになっていて、オスカー受賞なるか、と世界で注目が高まっています。ユン・ヨジョンは1947年生まれのベテランなので、出演作も映画ドラマ共に本当にたくさんで、ホン・サンス監督作にもいくつか出ていますが、その中でも今日は日本と関連のある作品として、「自由が丘で」をご紹介したいと思います。


〇まずホン・サンス監督について少しお話しすると、昨年、ホン・サンス監督は「逃げた女」でベルリン映画祭監督賞を受賞しました。ポン・ジュノ監督の「パラサイト」アカデミー賞四冠の話題が大きすぎて、かげに隠れてしまったんですが、けっこうすごいことなんですよね。韓国国内ではホン・サンス監督作は興行的にはヒットとはならないですが、海外での評価が高く、そういう意味でも、ユン・ヨジョンが世界的に知られるきっかけの一つはホン・サンス監督作への出演もあったかなと思います。


〇「自由が丘で」、韓国の原題は「자유의 언덕(自由の丘)」でしたが、自由が丘はご存知の通り、東京の地名ですよね。でも、映画の舞台はソウル、加瀬亮以外の出演俳優も韓国の俳優です。映画の中では「jiyugaoka8丁目」という名前のカフェが出てきて、ここ、私も映画を見てから行ったことがあるんですが、実際にもこの名前でした。映画では、ムン・ソリ演じるヨンソンがここで働いていて、加瀬亮演じるモリはこのカフェに客として訪れます。三清洞にあるカフェで、ホン・サンス監督の作品はこの辺りがよく登場します。ソウルの中でも比較的昔ながらの街並みが残っている場所です。「自由が丘で」も、この辺りの韓国式の家、韓屋のゲストハウスがメイン舞台となりました。モリが泊まっているゲストハウスで、ここの主人がユン・ヨジョンでした。


〇モリはなんで韓国へ来たのかというと、恋人に会いに来たんですね。だけどもなかなか会えず、恋人と会えない間に出会う人たちとの話が映画の中心になっています。モリは韓国語を話せないので、基本的には英語の会話です。ユン・ヨジョンはアメリカに住んでいたこともあり、英語も話せるんですが、流暢というよりは韓国式発音で堂々としゃべる、ユニークなキャラクターです。そんなに出番は多くないんですが、キャラが際立ってるので、印象に残るんですね。英語が話せるというのも、今回の「ミナリ」の出演にもつながっているのかなと思います。「ミナリ」は在米コリアンの話です。


〇ホン・サンス監督作はいくつか共通の特徴がありますが、夢と現実の境界がぼんやりしていて、時間の流れも単純ではない。特に「自由が丘で」は、モリが読んでいる本のタイトルも「時間」で、時間についての映画とも言えます。

まずは二つの時間が流れているんですが、一つは映画の中の現在、モリが会いたいと思っている恋人クォンがモリが書いた手紙を読んでいる時間です。それと、手紙の中の時間。モリが日記のように韓国で過ごす毎日を手紙に書いた内容が展開します。この手紙、クォンが階段を降りている最中によろめいて落としてしまいます。その時に順番が入れ替わってしまいます。なので、手紙の中の時間が前後が行ったり来たりします。例えば、モリがヨンソンの飼っている犬を見つけてくれたお礼にヨンソンがモリにご飯をごちそうしている場面があって、その後にモリが犬を見つけてくれた場面が出てくる、という風にです。最初は、うん?なんで?と思うんですが、クォンが手紙を1枚1枚読んでいく場面がいちいち挟まれるので、ああ、手紙の中の話なんだな、手紙の順番が入れ替わってるんだなというのに気付きます。

そういうことか、と思って見ていると、最後の方にモリが眠っていて、夢から覚めるんですね。なので、結局どこからどこまで映画の中の現実として起こったことなのか、映画の中のモリが夢で見た出来事なのか、結局分からないんですね。ホン・サンス監督作は、映画のストーリーに没頭するというよりも、今、自分はホン・サンス監督の映画を見ているというのを感じさせるつくりになっています。


〇私は釜山映画祭で、この作品の出演者のトークを聞いたんですが、海雲台のビーチでのオープントークで、加瀬亮とムン・ソリが参加しました。その時に一番印象に残っているのは、加瀬亮とムン・ソリのベッドシーンがあるんですが、ムン・ソリが「加瀬亮さんがあまりにも細いので抱きしめて大丈夫なのか心配になった」と話していたことでした。そもそも、この映画は加瀬亮がホン・サンス監督のファンだったという縁で実現したんですが、こういう、日韓の才能が出会う作品が見られるのは映画ファンとしてとっても幸せです。

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