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文化

映画「玆山魚譜」

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2021-06-04

玄海灘に立つ虹


今日ご紹介する映画は、イ・ジュンイク監督の「玆山魚譜(チャサンオボ)」です。先日の百想芸術大賞の映画部門で大賞を受賞した作品ですが、韓国では今年3月末に公開されて、日本でも公開される見込みと聞いています。私は昨年、俳優のソル・ギョングさんに別の作品で書面のインタビューをしたんですが、その時に今後公開予定の主演作として「玆山魚譜」のことを聞いたんですね。この時点で私は玆山魚譜が何なのか分からず、調べて、ああ、朝鮮時代の魚類についての書物なんだなと分かりました。


映画はモノクロなんですが、水墨画のようにとっても美しいです。イ・ジュンイク監督といえば、「空と風と星の詩人 尹東柱」もモノクロでしたよね。

主に黒山島という島が舞台になっていて、ソル・ギョング演じる主人公はチョン・ヤクチョンという人物で、島流しで黒山島に住むことになるんですね。映画は1801年から始まりますが、これは実際にチョン・ヤクチョンが島流しになった年です。黒山島、私は行ったことないんですが、地図で見てみると韓国の西南にある島で、けっこう半島から離れています。玆山魚譜は、実際にチョン・ヤクチョンが黒山島で書いた書物ですが、映画の中では、魚類に詳しい若者チャンデとの共同作業として描かれます。チャンデを演じたのは、ピョン・ヨハン。魚類についての書物を作る話、と言うとまじめな感じがするかもしれないですが、躍動感が感じられるのは、対象が生き物だからですね。


映画の最初に「この映画はチョン・ヤクチョンが書いた『玆山魚譜』の序文をもとに作った創作物です」という説明があります。「玆山魚譜」の序文では「島にはチャンデという若者がいた。彼の協力のもとこの本を完成させた」という内容があります。イ・ジュンイク監督はこの序文にヒントを得て映画を作ったということですね。

映画の中でチャンデはただ魚類に詳しいだけでなく、学問に対する意欲満々の青年です。チョン・ヤクチョンに魚類について教える代わりに、チョン・ヤクチョンから学問を教わるというギブ&テイクが始まります。チョン・ヤクチョンの、実際に魚類を見て触って観察する好奇心にも観客としてはワクワクします。チャンデにしつこく質問を投げかけて面倒くさがられますが、魚類について知ることがおもしろくて仕方ないという風です。島流しにあって、しょげかえるんでなく、それはそれで新たな発見をしながら楽しむんですね。


一方、チャンデが学問に熱心なのは、出世欲もあるんですが、その点でチョン・ヤクチョンとの関係がこじれます。チョン・ヤクチョンは実学者として、現実から乖離した当時の政治に批判的な視点を持っていた人物なので、チャンデが政治の方へ行こうとするのは残念に思ったんだと思います。主演のソル・ギョング、ピョン・ヨハン共にいいんですが、個人的にはイ・ジョンウンさんが好きで、「パラサイト」の家政婦役ほか、たくさんの映画ドラマで大活躍の女優ですが、映画「玆山魚譜」ではチョン・ヤクチョンのお世話係のような役でした。この作品の明るさはイ・ジョンウンさんの存在によるところも大きいと思います。イ・ジュンイク監督の作品は、思わずつられて微笑んでしまうような、人間的なあったかみを感じますよね。


映画がとっても美しいと言ったのは、一つはチョン・ヤクチョンが暮らす家と島の風景が本当に絵に描いたような美しさで、こんなところがあるんだなと思って見ていたんですが、実はこの家は撮影のためにわざわざ建てたみたいなんですね。それも黒山島ではなくトチョ島という島だそうで、危うく黒山島に見に行くところでした。

チョン・ヤクチョンはチョン・ヤギョンという弟がいて、チョン・ヤギョンも島流しにあいます。一般的にはチョン・ヤギョンの方が有名ですが、それは映画にも出てくるように、流刑地でたくさんの書物を書き残したからですね。二人はなぜ島流しにあったのか、というと、カトリック教徒への弾圧というのが背景にあるんですが、これについては次回、キム・フンの小説「黒山」で詳しくお話ししたいと思います。

映画「玆山魚譜」はその背景を知らなくても十分楽しめる映画でしたが、背景について知りたいという好奇心をくすぐる作品でもありました。

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