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文化

エッセイ「旅の理由」

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2020-02-21

玄海灘に立つ虹

キム・ヨンハという人気小説家のエッセイ「旅の理由」。小説では、映画化された「殺人者の記憶法」とか、日本でも翻訳出版されてる。


私自身、韓国在住計5年、長い旅をしているようなもの。その間も、韓国内でいろんな地方に旅に出ることも多い。なんで旅に出るの?って聞かれると、私の場合は半分は取材。キム・ヨンハさんも作家なので、旅に出るとそれが原稿に生かされることも多い。個人的に共感する部分多かった。


まず、失敗談から始まる。集中して原稿を書くために中国に行ったら、空港でそのまま韓国へ追放された。理由はビザを取って行かなかったから。中国に行くのにビザがいるのを知らなかった、という。私も一昨年、日中韓のフォーラムが中国で開かれるのに韓国から中国へ行ったら、一緒に行った韓国の人はみんなビザ取ってて焦った。日本人が中国行くのには要らない。


中国で知り合いのいない環境で集中して原稿を書こうと思ったのに、そのまま韓国へ戻ってきたキム・ヨンハさん。ただ、ビザがなくて入れなかったとは恥かしくて周りに言えないので、結局韓国の自宅に引きこもって集中して原稿を書けた。結果オーライ。最初の計画では、出国―執筆―帰国、それが出国―帰国―執筆に順番が変わっただけ、という話のネタにする小説家。書くという職業の人にとって、旅の失敗談はむしろおいしい。すべて予定通りなら、おもしろくない。


とはいえ、みんなが書くという職業なわけではない。じゃあ、なんでみんな旅をするの?という話を、いろんな本の引用や自身の経験からひもといていくエッセイ。


特に昔と違って、わざわざその国へ行かなくとも、国内でもその国の食べ物が食べられたり、インターネットを通して、その国の写真や映像が見られる時代。なぜ、わざわざお金を払って、リスクを背負って、人は旅をするのか?


一つは、旅で感じられる人間味。旅先では基本的に不安。不安だから、誰かの優しさ、親切がとっても身に染みる。そういうのも旅ならではの、だいご味。私にとってはもう韓国は慣れてしまったので、最近はあまり感じることはないが、たまに韓国以外の海外に行くと、とっても不安。その国の言葉ができないというだけで、緊張する。一昨年、インドからの帰りに香港でトランジット、関空に帰る予定が、関空が台風で閉鎖ということがあった。急きょ香港から仁川行きを取ったが、乗るまでの数時間、香港ドルも持ってなくて、不安。近くにいたドイツ人が話しかけてきて、お腹すいてないか、と言ってパンを分けてくれた時。そういう優しさに触れると、自分も誰かが困っていたら助けよう、という気持ちになる。というのが、エッセイにも書かれていた。


たぶん、旅をする理由は人によってさまざまで、この本を読んだら答えが分かるようなものでもない。でも、人生は旅だ、とも例えられるように、なぜ旅をするのかを考えることは、なぜ生きるのかを考えることとも近い。この本を通して、旅だけでなく、人生そのものを考える。ベストセラーの理由。

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