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文化

映画「湖底の空」

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2021-05-21

玄海灘に立つ虹


今日ご紹介する映画は、日中韓の合作、佐藤智也監督の「湖底の空」です。この作品、武田さんも出演されているんですよね。昨年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭でグランプリとシネガーアワードをダブル受賞した作品で、日本では6月から公開の予定だそうです。


主人公は空(そら)という女性で、韓国・安東の出身ですが、現在は上海にいます。父が日本人、母が韓国人。お父さん役を武田さんが演じたんですよね。お母さん役のみょんふぁさんも、私は朝日新聞文化部で舞台担当記者をやっている時に何度か舞台で拝見しました。在日の俳優さんなので日本語ネイティブですが、韓国語も本当に上手で、今回は韓国人役なので日本語はわざと韓国の人の話す日本語風に話していて、さすがだなと思いました。空を演じたのは韓国の俳優、イ・テギョンですが、中国語も日本語も話します。日中韓の言語が飛び交う作品でした。


空には海(うみ)という双子がいて、イ・テギョンが一人二役を演じました。武田さんの登場シーンは空と海の幼い頃、韓国・安東でのシーンでしたが、実際、安東で撮ってるんですよね?私も安東には何度か行っていますが、見たことのある景色が出てきて、安東で有名な仮面劇、タルチュムなども登場しますよね。


上海でイラストレーターとして活動している空と、空が幼い頃、写真家として活動していた空のお父さんは共通する部分があるなと感じたんですが、芸術と商業性の間での葛藤。これは私自身も今まさにぶち当たっている問題で、韓国映画について書くライターとしては商業的なものも大事ですが、他の人があまり紹介しないけども大事だと思う作品、日本でまだあまり知られていない監督や俳優を紹介したいというのはなかなか思うようには受け入れられず、難しいなあって思います。

写真家としても、二人の子どもがいて、それなりに稼がないといけないという状況で、芸術性ばかり追求するのは難しいですよね。イラストレーターの空の葛藤はまたちょっと違って、双子の海への罪悪感を背負って、自分の商業的成功に躊躇してしまうというものでした。


海についての説明はどこまでしたらいいかな、と迷ったんですが、「湖底の空」の公式ホームページにストーリーとして出ている範囲で言うと、幼い頃は空の双子の弟だったのが、成人として登場する海は女性になっています。性別適合手術を受けた、ということですが、この辺りも作品の核心部分になっていました。海は幼い頃は「かい」と呼ばれたけども、本人は「うみ」と呼ばれたがった。うみの方が女の子の名前のように聞こえるからですね。


空が躊躇してしまうのはイラストだけでなく、恋愛も、なんですよね。海のことを思うと、生まれながらの女性として自由に恋愛するのも後ろめたいのかもしれません。上海では望月という出版社の男性と出会い、空の絵がいいと言ってくれて、気持ちが動くんですが、なかなか積極的にはなれない。望月を演じたのは、阿部力(つよし)、日本と中国で活動する俳優で、やはりバイリンガルなんですね。望月も望月で、過去の傷を抱えている。空も望月も、自分の生まれた国にいられない、いたくない理由があるという点で共通していて、共に惹かれ合っているけども、簡単には近づけない、という二人です。


最近、韓国の美術評論家と話していて、美しい風景が芸術をはぐくむという話題になったんですが、この映画の韓国の舞台が安東だったこと、父の職業が写真家、娘の職業がイラストレーターだったのも関連があるんだろうなと思いました。映画を見ながら、安東の美しい景色も一緒に楽しんでもらえたらなと思います。

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