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文化

映画「偽りの隣人」

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2021-08-06

玄海灘に立つ虹


今日ご紹介する映画はイ・ファンギョン監督の「偽りの隣人 ある諜報員の告白」、韓国では「이웃사촌」というタイトルで、昨年公開されました。1985年、軍事政権下での民主化運動にまつわる話ですが、民主化運動そのものよりも盗聴にフォーカスした映画です。野党政治家で次期大統領として期待されているイ・ウィシクの監視役として隣の家で盗聴をするユ・デグォン。KCIAの諜報員なんですね。敵対関係のはずの二人が、徐々に情がわき、人間的な関係になっていく、という話です。


日本のタイトルがいかつい感じになってますが、イ・ファンギョン監督といえば、「7番房の奇跡」という大ヒット映画で知られる監督で、今回も涙と笑いの「ヒューマンコメディー」という監督らしい作品となっています。時代背景は軍事政権下で、イ・ウィシクのモデルは金大中大統領のようなんですが、あくまでフィクション。史実を明らかにするような映画ではなく、真剣に盗聴しているのがいかに滑稽なことかを感じさせる映画でした。デグォンの他にも2人の盗聴係がいて、隣の家の小さな物音にも反応して、なにかの暗号ではないかと3人でまじめに議論したりしますが、大体は勘違いです。


映画の中でイ・ウィシクは野党政治家ですが、民主化運動が盛り上がっているなかで人気が出てきて政権の側としては邪魔な存在。KCIAとしては次期大統領選に出られないようにしようと必死です。金大中大統領も大統領になるずっと以前、KCIAに拉致されたり、逮捕されたりということがありました。イ・ウィシクも映画の冒頭で金浦空港で拉致され、軟禁状態となります。イ・ウィシクが軟禁状態になっている家の隣で、デグォンたちが盗聴します。イ・ウィシクには大学生の娘や小学生の息子がいて、わきあいあい、楽しい家族です。盗聴しても大半はたわいない家族の会話なんですね。主人公のデグォン役は、チョン・ウが演じました。ドラマ「応答せよ1994」で人気が出た俳優ですが、映画でも「ヒマラヤ」「セシボン」「レッド・ファミリー」などで活躍しています。


この映画、少し事情がありまして、イ・ウィシク役を演じた俳優オ・ダルスは名脇役として知られる俳優ですが、2018年に#MeToo運動で告発され、謝罪した経緯があり、公開できなくなっていたんですね。映画自体は告発される前に撮られていたのですが、この映画では脇役でもなく主演なのですぐに公開は難しかったようです。時間が経ち、コロナで劇場に行く人が少ない時期に公開となって関係者は残念だっただろうなと思います。オ・ダルスはコミカルなイメージが強いですが、今回はちょっとまじめな役でした。


映画は繰り返し、軍事政権下の「こじつけ」を強調しているように見えましたが、例えばデグォンは自分の息子が左手でスプーンを持ってご飯を食べるのを見て「左手で食べるなと言っただろ?おまえは左派か?」と怒る場面があります。小学生の息子が左派が何か分かるのか分からないですが、左利きは左派というような単純なこじつけ。

軍事政権下では共産主義者をアカという意味の「パルゲンイ」と呼んで敵視し、野党政治家だから共産主義者でパルゲンイというわけではないんですが、KCIAはすぐに結びつけようとします。最初はデグォンもそれに疑問を持っていなかったのが、盗聴するうちに、そして隣人としてイ・ウィシクと実際に交流するようになってだんだんそのおかしさに気付いていきます。

だからといって立場上、イ・ウィシクの味方になれるわけではないんですね。デグォンにも妻子がいて、家族のことを考えれば不本意でもKCIAの言いなりにならざるを得ない。この葛藤をどう克服するのか、しないのか、というのが後半の見どころです。


民主化運動にまつわる映画は本当に多いなと思いますが、そのなかでも「1987、ある闘いの真実」のような重みのある映画もあれば、この「偽りの隣人」のように軽く楽しめる映画もあり、いずれにしても韓国にとって民主化というのは大きなテーマであり、いろんな角度から新たな映画ができるというのはそこにいろんなドラマがあるからなんでしょうね。「偽りの隣人」は日本では9月公開予定だそうです。

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