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文化

旅行記「私の文化遺産踏査記 済州編」

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2021-09-17

玄海灘に立つ虹

ⓒ Changbi Publishers

今日ご紹介する本は、ユ・ホンジュン先生の「私の文化遺産踏査記 済州編」です。とても有名なシリーズで、日本でもいくつか翻訳されています。今回は済州編の表紙が変わった特別版が出たので買ったんですが、最近韓国ではコロナで海外旅行に行けない代わりに済州に行く人が多くて、この本もベストセラーの棚にありました。初版は2012年に出ています。

ユ・ホンジュン先生は美術史が専門なので、文化遺産踏査記とタイトルがあるように、普通の旅行とは少し違った視点で地方を案内してくれます。とはいえ、済州といえば「自然」、特に火山島なので他では見られないような風景が多いんですが、それも文化と結び付けて解説しています。このシリーズの人気の理由の一つは文章、ユ先生は名文家で、文章そのものの味わいも魅力です。


済州島の真ん中にはハルラサンという山がありますが、標高1947メートル、韓国では最も高い山で、私も途中まで登ったことがあります。逆に頂上まで登れなかったということでもあるんですが、最近人気なのは、オルムです。山よりも標高が低くて、丘みたいなものなんですが、済州島にはオルムがたくさんあって、登山というよりハイキング、散策ぐらいの気軽さで登れます。

ユ先生は「オルムは済州の人と神の故郷だ」と書いています。日本も八百万の神と言って山や川、岩など様々な自然に神の存在を感じる文化がありますが、済州も似たような文化があるようです。オルムは自然の宝庫であり、済州の人たちの信仰の対象でもあるということです。

済州といえば「風」も有名なんですが、風が強すぎてオルムに登れなかった話も出てきて、人間の思い通りにはならない「自然」というのが、神秘的な気持ちにさせるんだろうなとも思いました。


ユ先生が済州によく通うようになったのは、済州のカン・ヨベという画家の影響が大きく、このカン・ヨベがオルムをはじめ済州の風景を描き、その絵に惹かれて済州を踏査するようになったということです。

私も済州には何度か行っているので、行ったことがある場所もいくつか出てきますが、その一つはキム・ヨンガプギャラリーでした。キム・ヨンガプという写真家のギャラリーなんですが、済州の風景を撮るために済州に移住した写真家で、やはりオルムの写真をたくさん撮っています。ギャラリーではキム・ヨンガプの写真20万点余りを所蔵しているそうです。私がオルムの美しさを教えてもらったのは、キム・ヨンガプの写真でした。まだ実際には行けてないオルムがほとんどですが、いつかオルムめぐりもしてみたいです。このように済州と芸術は切っても切れない関係で、済州に移住するアーティストもたくさんいます。


済州島は2007年に世界自然遺産に登載されましたが、その代表的なのが城山日出峰。これもオルムの一つで、ここは私も行ったことがありますが、頂上まで登るととっても鮮やかな緑が広がっていたのが目に焼き付いています。陸地とつながってはいるんですが、ほとんど海に囲まれていて、プリンみたいな丘がポコッと海に突き出たような不思議な形になっています。海の中から水中爆発してできたんだそうです。ユ先生は文化財庁の庁長も務めた方なので、どういう価値が認められて世界自然遺産認定に至ったのかというのもかなり詳しく書かれていました。


済州といえば海女も有名です。海にもぐって貝や海藻を採取する女性を指しますが、日本でも「あまちゃん」というドラマで注目を浴びたことがありました。私も済州に行くと「海女の家」と呼ばれる食堂でアワビ粥など海産物を食べるのが一つの楽しみです。ユ先生は済州の海女についても踏査していて、こうなると民俗学の本に近い気もします。昔は男性もやっていたそうなんですが、朝鮮時代に男性が海女の仕事をやるのは禁じられた、ということです。男性は船に乗って海に出る漁業に従事したり、水軍に動員されたりしたんですね。なんで海女って女性なのかなあって思っていたら、歴史的な経緯があったことを知りました。


実はこのシリーズ、韓国の地方だけでなく日本もあって、九州、奈良、京都と、韓国とゆかりがある場所だったり、古都として日本文化がつまった場所をユ・ホンジュン先生がどう見るのか、機会があれば読んでみたいと思います。

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