早くも12月ですね。私は年末年始を日本で過ごそうと一時帰国中です。今日は一つの作品を紹介するのでなく、年末らしく、2021年の映画を振り返ってみたいと思います。どんな作品が人気だったのか、あるいは高く評価された作品、そしてコロナ禍での韓国映画界の行方についてもお話ししたいと思います。

今年も去年に続き、コロナの影響で劇場の観客数はなかなか伸びませんでしたが、その中でも最も観客数が多かった韓国映画は、360万人動員したリュ・スンワン監督の「モガディシュ」でした。このコーナーでも紹介したので覚えている方もいらっしゃると思います。ソマリア内戦が激しくなるなか、首都モガディシュから、韓国と北朝鮮の大使館職員たちが一緒に脱出するという、実話をもとにした映画でした。キム・ユンソク、ホ・ジュノ、チョ・インソン、ク・ギョファンが主演し、韓国と北朝鮮の対立する緊張感もありつつ、同じ民族同士、情がわいて助け合うという、人間らしい側面も感じられたのが人気の理由かなと思います。リュ・スンワン監督といえばアクションで知られる監督で、ソマリア内戦のリアルすぎる再現にも圧倒されました。つい先日授賞式があった青龍映画賞では最優秀作品賞など「モガディシュ」が５部門で受賞していました。日本での公開はまだですが、公開されるとは聞いているので楽しみにしていてください。

韓国映画でその次に観客数が多かったのは、キム・ジフン監督の「シンクホール」。シンクホールは地下に空洞ができて地面が急に沈む現象ですが、映画の中では建物ごと地下深くに沈んでしまい、住民たちが地上へ脱出しようと悪戦苦闘する様子が描かれました。チャ・スンウォンが主演し、状況は深刻なんですがコメディーとして楽しめる映画でした。韓国では近年、不動産価格が高騰していて、家を買うのが夢のまた夢のようになっていますが、やっと手に入れたマイホームが地下に沈んだという悲劇が、多くの人の共感を呼んだようです。

韓国映画以外では、日本のアニメーション「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」が観客数200万人を超えるヒットとなって注目を集めましたし、11月に公開された「エターナルズ」はアメリカのマーベル・スタジオ作品ですが、韓国の俳優マ・ドンソクが出演していることもあって話題になっています。

このコーナーでも紹介したイ・ジュニク監督の「茲山魚譜―チャサンオボ」は観客数は伸びなかったんですが、評価は非常に高く、百想芸術大賞の映画部門大賞をはじめ、青龍映画賞では主演のソル・ギョングが主演男優賞を受賞するなど、多くの賞を受賞しました。朝鮮時代後期、島流しで黒山島にやってきた学者のチョン・ヤクチョンが、島の青年漁師、チャンデの協力を得て魚類図鑑「茲山魚譜」を執筆するという、これも実話をもとにした作品でした。ちょうど今日本で公開中なので、ぜひ劇場で水墨画のように美しいモノクロの世界を味わってほしいと思います。

日本での公開に合わせてイ・ジュニク監督にインタビューしたんですが、イ・ジュニク監督は今、オンライン動画配信サービス「TIVIN」で配信される「ヨンド」というドラマを撮っていて、「コロナ禍で劇場が厳しい状況にあり、回復してほしいと願っているが、劇場も一つのプラットフォームであって、新たなプラットフォームであるオンライン動画配信への移行も自然な流れ」という話をしていました。

イ・ジュニク監督だけでなく、コロナ禍で映画の劇場公開が難しくなったなかで、映画監督たちがネットフリックスをはじめオンライン動画配信サービスのシリーズものを撮ることが増えています。世界的に最も注目を浴びたのが「イカゲーム」ですが、「イカゲーム」を演出したファン・ドンヒョク監督は「トガニ　幼き瞳の告白」「怪しい彼女」「天命の城」などの映画を撮ってきた監督です。さらに11月に配信が始まって世界的に注目を集めている「地獄が呼んでいる」のヨン・サンホ監督は「新感染 ファイナル・エクスプレス」などで知られる監督で、ヨン・サンホ監督は漫画家でもあり、「地獄が呼んでいる」は原作のウェブ漫画もヨン・サンホ監督が描いたものです。釜山国際映画祭で監督のトークを聞いたんですが、漫画を描いている段階で映像化は考えていて、ネットフリックスからシリーズものとしての制作オファーが来たんだそうです。

映画ファンとしては、もちろん劇場の大きなスクリーンと立体感ある音響で映画を楽しみたいですが、オンライン動画配信サービスを通して世界同時公開となって韓国の作品が人気を得ている現状に、韓国映画界がコロナ禍で生き残りをかけて変化していくたくましさを感じてもいます。来年はスクリーンでもオンラインでも多様な作品が楽しめるといいなと思います。