自己啓発本『セイノの教え』
2024-03-21
昔々、
あるソンビが官吏の登用試験である科挙を受けるため、
都の漢陽(ハニャン)へ向かっていた時のお話です。
李(イ)ソンビと呼ばれる儒学者は性格も頭も顔立ちも良い若者でした。
ただ一つ、怖いのは苦手な、たいへんな弱虫でした。
お化けの話はもちろん
夜道も怖く、暗くなると出かけるのも控えるほどでした。
漢陽へ向かっていた李ソンビが山道を歩いていた時、
どこからか虎の鳴き声が聞こえてきました。
李ソンビは恐る恐る虎の鳴き声が聞こえてくる方へ行ってみました。
何と、一頭の大きな虎が深い穴に落ちて泣いているではありませんか。
「ソンビさま~!お願いです!助けてください」
李ソンビは近くに倒れていた木を見つけ、引きずってきました。
そして、その木を穴に梯子のように懸けてやりました。
虎は木につかまって穴から抜け出すことができました。
「おい、ソンビとやら。
三日も穴に閉じ込められていたもんで、腹が減ってしょうがない。
お前さんを食うしかないな」
「ちょっ、ちょっと待ちなさい。
お前の言い分が正しいか周りの意見を聞いて見よう」
「よーし。3度だけ周りのものに聞くのを許してやろう。
一度でもお前の肩を持つものがいたら助けてやろう」
「人間は恩を知りません」
「私は虎の言い分が正しいと思います」
木と牛は虎の肩を持ちました。
李ソンビはあきらめ気分で、ウサギに近寄りました。
そして木や牛に話した経緯をウサギにも聞かせました。
「正しい判決を下すためには、状況を確かめる必要があります。
虎が落ちていた穴はどこにあるのですか?」
李ソンビと虎、ウサギは穴がある場所へ行きました。
「虎さまがこの穴に落ちていたとおっしゃるんですね?」
「そうだと言っただろう」
「うーん...その状況を確かめたいので、
もう一度、穴に入っていただけませんか」
「ほら、この通り!この穴に落ちていたんだ!」
「では、今度はソンビさまの番です。
道を通りかかったソンビさまは穴に落ちた虎を助けるか、
そのまま通りすぎるか決めてください」
「虎を助ければ食われるかも知れないからな...
私はこのまま通り過ぎることにしよう。
じゃ、急いでいるので行かせてもらうよ」
「おい!行くな!穴から出してくれ」
恩を仇で返そうとした虎は
再び深い穴に閉じ込められてしまいました。
名裁きを下したウサギは軽い足取りで山に帰っていった、とさ。
2024-03-21
2024-03-14
2024-03-15