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文化

小説「私のおばあちゃんへ」

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2022-02-17

玄海灘に立つ虹


本日ご紹介する本は、小説「私のおばあちゃんへ」です。6人の女性作家がおばあちゃんというキーワードで書いた短編小説6編で、このコーナーで紹介したことのある作家で言うと、「アーモンド」の著者ソン・ウォンピョンの短編もあります。韓国では2020年に出た本ですが、日本でも翻訳出版されています。


この本を選んだのは、私の祖母が昨年99歳で亡くなりまして、コロナですぐに帰国できずお葬式にも行けなかったんですが、年末年始、家族や親戚と過ごしながらおばあちゃんの思い出を語りあいました。皆さんもそれぞれおばあちゃんの思い出があると思います。


ペク・スリンの「黒糖キャンディー」は、孫の私が、おばあちゃんが亡くなった後、おばあちゃんの日記を通して、おばあちゃんの恋について初めて知るという内容でした。若かりし日の恋ではなく、おばあちゃんになってからの恋です。

語り手である私のお母さんは交通事故で亡くなり、おばあちゃんがお母さんの代わりに孫の面倒をみていました。お父さんが仕事でフランスに赴任することになり、一家でフランスに引っ越します。おばあちゃんにとっては住み慣れた韓国を離れて言葉もできない国で暮らすことは大変なことだったと思います。話す相手もいない孤独な中で、ピアノをきっかけに仲良くなったフランスの男性との恋。

おばあちゃんはピアノに特別な思い出があって、高校生時代、音楽の先生に片思いしていたんですね。放課後に個人レッスンを受け、これからの自分の人生に希望を感じていた時期でした。おばあちゃんはこの時代の女性としては珍しく、大学に入学しますが、朝鮮戦争が始まる前に中退します。お見合い結婚をしたためですが、この当時は親の言いなりになるしかなかったんですね。だから、ピアノはおばあちゃんにとっては失われた青春の象徴でもありました。


こんなふうに、これまであまりメインで描かれてこなかった「おばあちゃん」が、妻、母、祖母として自分のやりたいことは後回しにしながら生きてきた女性として見えてきます。これは日本でもベストセラーになったチョ・ナムジュの小説「82年生まれ、キム・ジヨン」で、ごく平凡な女性がぶつかる困難が描かれたのにも通じます。書き手の女性作家たちはチョ・ナムジュやキム・ジヨンに近い世代で、どんどん多様な女性像が描かれるようになってきたなと思います。


私が自分の祖母を思い出したのは、カン・ファギルの「サンベッド」だったんですが、認知症のおばあちゃんが出てきます。私の祖母も認知症でした。小説の中のおばあちゃんは認知症で食べ物の好みが変わり、それまで食べなかったお菓子を食べるようになるんですが、私の祖母は逆で、野菜嫌いでお菓子ばっかり食べていたのが、認知症になって野菜も食べるようになりました。好き嫌いって、もっと本能的なものと思っていたのが、意外と好き嫌いも記憶なのかなと、とっても不思議だったのを思い出しました。映画やドラマでも認知症が描かれるようになってきましたが、少子高齢化が進み、関心が高まってきているのかなと思います。


ソン・ウォンピョンの「アリアドネーの庭園」は、「年老いた女になるつもりはなかった」と始まるんですが、うちの母もよく「自分が70代なんて信じられない」と言っています。みんなそうなんだろうな、という気がします。おばあちゃんになっても、気持ちはなかなかついてこないんですよね。

「アリアドネーの庭園」は近未来の話で、主人公は私と同じくらいに生まれた、おばあちゃんです。読んでいると自分がおばあちゃんになった頃を想像せずにはいられない。皆さんもぜひ、「私のおばあちゃんへ」を読んで、いろんな形でおばあちゃんを疑似体験してみてほしいなと思います。

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