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文化

小説『ショウコの微笑』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2022-06-16

玄海灘に立つ虹

〇本日ご紹介する本は、チェ・ウニョンの小説『ショウコの微笑』です。日本でも翻訳出版されていますが、韓国では作家チェ・ウニョンが2013年に新人賞を取って知られるようになったきっかけの作品です。タイトルを見て、以前から気になっていました。ショウコって誰?って。

チェ・ウニョンさんは1984年生まれ、『ショウコの微笑』以外にも、『わたしに無害なひと』という小説も日本で翻訳出版されています。


〇主人公はソユという名前の韓国人女性で、ソユが高校生の時、日韓文化交流でソユの家にショウコという日本人の女子高校生がホームステイに来ます。韓国で日本文化が開放された年ということなので1990年代後半ですね。その頃高校生なら私もほぼ同世代と思われます。ソユとショウコは英語で会話をするんですが、ソユのおじいちゃんは日本語がしゃべれて、ショウコと日本語で話します。それはソユの見たことのないおじいちゃん。ショウコはソユのおじいちゃんを「ミスターキム」と呼び、ソユ以上に仲良くなります。ソユはお母さんとおじいちゃんと3人暮らしですが、3人とも黙って食事をするような家族だったのが、ショウコが来て急に活気を帯びます。


〇タイトルが『ショウコの微笑』ですけど、ソユはショウコの微笑が本当に楽しくて笑っているのではないと感じていました。ショウコは日本で一緒に暮らす自分のおじいちゃんのことを嫌っていて、「早く高校を卒業して東京に行きたい」とソユに語っていました。ショウコはホームステイを終えて日本に帰ってからも、ソユには英語で、ソユのおじいちゃんには日本語で手紙を送り続けます。それが、大学に入る頃に途絶えてしまう。どんな事情だったのか、というのはだいぶ時を経てから分かるのですが、私は、ソユとショウコの立場が逆転するのが印象的でした。高校生の時にはソユの目にはショウコが大人びて見えていたのが、ショウコは東京の大学を断念した一方でソユはソウルの大学に進み、カナダに留学もする。2人は大学生の時に日本で再会し、ソユは優越感を感じます。


〇順風満帆のように見えたソユは、映画監督を目指すけどもなかなか認められないまま歳月が流れていく一方で、ショウコは地元で理学療法士となって病院に勤める。ソユの挫折がとてもリアルで引き込まれたんですが、後書きでチェ・ウニョンさんが自分がなかなか作家として認められなかった頃の話を読んで、著者の経験に基づくものなのかもしれないと感じました。チェ・ウニョンさんは今は本当に売れっ子の作家ですが、この『ショウコの微笑』で受賞するまでは相当苦労したようで、経済的にも厳しくなり、いよいよ作家をあきらめないとと思ってボロボロ泣いたということも書いていて、ソユの映画をあきらめる様子と重なるようでした。


〇ソユの挫折感が最も伝わってくるのが、おじいちゃんがソウルで一人暮らしをしているソユを訪ねてくる場面なんですが、忙しい忙しいといってなかなか会えない孫を訪ねてきたら、暇そうなんですね。ソユにとったら映画作りに行き詰まっていることは家族に知られたくないことだったんですが、おじいちゃんは予想していたし、一人暮らしの様子を見れば、やっぱりという感じです。不器用なおじいちゃんですが、ソユがやりたいことをやりながら生きているのはかっこいいと、優しい言葉をかけて帰ります。実はおじいちゃんはこの時、久しぶりに届いたショウコからの手紙を持って、それを口実にソユを訪ねてきました。ソユとおじいちゃんをつないでくれるのは日本にいるショウコでした。


〇隣の国のおじいちゃんと手紙を交わすというのは、距離感があるから互いに正直に語れることもあるかもしれないなとも思いました。おじいちゃんはソユに言っていないことをショウコには打ち明けていたり、ショウコも同世代のソユよりもむしろおじいちゃんに心を開いた部分があったみたいです。国と世代を越えた手紙のやりとりがとても印象的だったのと、家族は近すぎて逆に意思疎通が難しいところもあるなというのも改めて感じました。それを赤の他人の外国人がつなぐという物語、ぜひ読んでみてほしいなと思います。


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