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文化

映画『春の日は過ぎゆく』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2023-04-06

玄海灘に立つ虹


〇本日ご紹介する映画は、ホ・ジノ監督の『春の日は過ぎゆく』です。2001年の作品ですけども、久しぶりに旧作のご紹介です。まだ4月に入ったばかりですけど、今年は日本も韓国も例年よりも桜の開花が早く、もう散ってしまったという地域も多いんじゃないかと思います。というわけで、『春の日は過ぎゆく』を選んだのもあるのですが、実は最近、『THE FIRST SLAM DUNK』や『すずめの戸締り』など韓国で日本アニメがヒットしている影で、韓国映画がちょっと元気ないなという感じでして、このタイミングで名作について語るのもいいかなと思いました。


〇『春の日は過ぎゆく』はユ・ジテ、イ・ヨンエ主演の映画ですが、私は個人的にはユ・ジテもイ・ヨンエも『春の日は過ぎゆく』の時が一番好きというぐらい、ナチュラルで心に刺さる演技でした。『春の日は過ぎゆく』はホ・ジノ監督自身の話という噂も聞いたことがあります。もちろん全部実話というわけではなく、監督の経験が一部反映されているということだと思います。なんとなく、ユ・ジテ演じるサンウのおっとりした雰囲気、ホ・ジノ監督に似ているような気もします。


〇サンウとイ・ヨンエ演じるウンスが出会い、別れる映画なのですが、2人はラジオの仕事を通して出会います。サンウはサウンドエンジニア(録音技師)で、ウンスは地方の放送局のプロデューサーです。ラジオで流す音の録音に2人で行くのですが、風にそよぐ竹藪の音、お寺の鐘の音、川のせせらぎなどを録音します。そういう繊細な音が聞こえるぐらい静かな映画なのですが、静かな映画は、それだけ主人公たちの心の動きがよく伝わってきますよね。出会い、別れる、と言葉で言ってしまうとそれだけですが、その間の2人の感情の動きが丁寧に描かれた映画でした。


〇何より『春の日は過ぎゆく』と言えば、あるセリフが有名で、韓国ではこの映画を見ていなくてもこのセリフを知らない人はいないという「ラーメン食べますか?(라면 먹을래요?)」というセリフ。これ、多くの人は「ラーメン食べていく?(라면 먹고 갈래?)」と記憶してるんですが、セリフとしては「ラーメン食べますか?」なんです。これがなぜそんなに有名かというと、「泊っていく?」の意味で使われるようになったからなんですが、サンウが車でウンスを家まで送った時、ウンスがいったん車から家の方に向かって、また戻ってきて車の窓からサンウに「ラーメン食べますか?」と言います。ラーメンといえば韓国はインスタントラーメンなので、当然、家に上がっていく?ということなのですが、さらにラーメンを作りながら、ウンスはサンウに「泊っていく?(자고 갈래요?)」と畳みかけます。

というわけで、「ラ―メン食べていく?」が誘惑の代名詞になるんですが、ドラマにもよくセリフとして出てきて、私がはっきり覚えているのは『キム秘書はいったい、なぜ?』と『ロマンスは別冊付録』に出てきました。韓国での「ラ―メン食べていく?」の意味を知らない日本の視聴者はたぶん何のことか分からなかったんじゃないかと思います。「ラーメン食べていく?」は「泊っていく?」という誘惑の言葉で、もとは『春の日は過ぎゆく』のセリフだったということです。


〇さらにもう一つ有名なセリフが、別れを切り出したウンスにサンウが言う「어떻게 사랑이 변하니」ですが、ちょっと日本語にするとぎこちない感じですが「なんで愛は変わるの」という意味です。ラーメンで誘ってきたウンスですが、心変わりをしたのか、特別サンウとの間で別れるほどの出来事があったわけではないけども、別れようと言ってくる。サンウはすぐに受け止めらません。

『春の日は過ぎゆく』というタイトルですが、これはサンウとウンスの移ろう愛のことでもありますが、サンウのおばあちゃんのことでもありました。サンウのおばあちゃんは認知症で、しょっちゅう駅へ行って、すでに亡くなっているおじいちゃんの帰りを待ちます。サンウのおばあちゃんの春、おじいちゃんと愛し合った時期は過ぎ去ったけども、その思い出を生きるおばあちゃん、そのそばで今まさに春が過ぎゆくサンウ。人生そんなもんなんだろうなと、ちょっと悲しくもあり、でもその春のぬくもりを感じて生きていける、という余韻が残りました。


〇ホ・ジノ監督の『八月のクリスマス』と共に長く愛される『春の日は過ぎゆく』。こういうゆったり時間の流れる韓国映画が最近はなくなってきましたが、春の余韻にひたりながら、『春の日は過ぎゆく』、久しぶりに、あるいは初めて見る方にもおすすめしたいと思います。


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