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ライフスタイル

キム・ギドク監督の死

#マル秘社会面 l 2020-12-16

玄海灘に立つ虹

ⓒ YONHAP News

今月11日、キム・ギドク監督が北ヨーロッパのバルト海沿岸に位置するラトビアで新型コロナウイルスに感染し亡くなりました。ベルリン、ベネチア、カンヌの三大映画祭で受賞するような作品を作り上げた世界的な監督の死。しかしその死に対して韓国の映画界は沈黙を続けています。

この時期に新型コロナウイルスで、それも外国で亡くなり、葬儀もできず、家族も現地に行くことができず、遺骨となって戻ってくると言われます。普通でしたら、出演俳優や映画界の同僚などから哀悼のメッセージなどが出そうなものですが、海外での監督への評価は高いものの、国内では残念ながら彼の業績よりも、その行動に対する批判の声の方が高くなっています。

キム・ギドク監督は2004年にベルリン国際映画祭で監督賞、2011年にカンヌ国際映画祭で「ある視点」賞、2012年にベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞するなど、ヨーロッパ三大映画祭のすべてで受賞した韓国では唯一の監督です。しかし、2017年に女優を暴行したとして告訴され、翌年、罰金500万ウォン(約48万円)の有罪判決を言い渡され、2018年には女優・スタッフに対しセクハラをしたという報道もありました。そのためその評価もセクハラ監督という否定的な側面が大きくなっています。

キム監督の死亡の事実が伝えられた後、映画界からはごく少数の追悼の声が上がりましたが、直ちに激しい批判にさらされました。釜山国際映画祭のチョン・ヤンジュン執行委員長は自身のSNSに「韓国映画界にとって埋められない大きな損失であり悲しみ」と哀悼の意を表しましたが、すぐに非難にさらされました。あるツイッターユーザーは「キム・ギドク監督が映画の現場で同僚たちに性的暴行をし、悪影響を及ぼしたことが真の大きな損失」だと批判しています。


メデイアの報道では 、12日朝鮮日報は1面と12面にキム・ギドク監督死亡のニュースを「映画界の異端児、海外で次期作を夢見る」というタイトルで報道しました。東亜日報も1面と2面で報道、京郷新聞は2面にキム監督死亡のニュースを掲載し「映画『嘆きのピエタ』でベネチア映画祭の金獅子賞を受賞した作家主義の監督」だと報道しました。そしてセクハラ疑惑などについてはどの新聞も簡略に報道しています。


興味深いのは各新聞のキム監督の映画に対する評価が相反していることです。


中央日報は週末版の中央サンデーで「世界三大映画祭を席巻したキム・ギドク監督、コロナで倒れる」「MeToo運動により一瞬にして奈落に落ちる」と書いています。そして2002年度作の『悪い男』について「阻害され、淘汰された者たちの原始的な人生を積極的な映像美学で写し撮ったのが彼の手腕」だと評価しながらも「しかし特有の暴力的な作品世界の裏面で映画製作現場自体が暴力的だという話が絶えなかった」と付け加えています。


ハンキョレ新聞は「彼は主に売春と暴力で傷つく女性とそれを抑圧する男性の物語を映画にしてきた。そのため偏狭で反女性的だという批判を受けて来た。女優に対する暴行とMeTooの加害者として批判の中心に立っていた」と報道しています。


映画専門雑誌のシネ21はオンラインの記事で「2017年、キム・ギドク監督が映画撮影現場で俳優を相手に行ったセクハラ行為がMeToo運動へとつながり、法廷で争ってきた。当時映画界は『映画監督キム・ギドク事件共同対策委員会』を立ち上げキム監督による被害事実に積極的に対応してきた」と伝えています。


亡くなった当時、ラトビアにいたのも現地に住宅を購入し、永住を考えていたということです。韓国ではこれ以上、映画を撮ることが難しいと考え第2の人生の地として遠く北欧の国を選んだようです。世界三大映画祭で受賞した監督ということで、普通でしたら大きな哀悼をもって、59歳というその早すぎた死が語られるところでしょうが、韓国人にとっては暴力的、セクハラのイメージの方が強く、その死が哀悼を持って語られるには時間がかかりそうです。

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