自己啓発本『セイノの教え』
2024-03-21
昔々、ある村におじいさんとおばあさんが住んでおりました。
おじいさんは昔の帽子、カッを作って売っていました。
おじいさんの作るカッは形がよく、しかも丈夫でした。
ところが、いつ頃からか、カッを持って市に行ってもさっぱり売れません。
おじいさんはカッを売るため、遠くにある市場まで出かけるようになりました。
市が終わるまで、売れたカッはたったの一つ。
おじいさんはとぼとぼと家に向かって歩き始めました。
暗くなった山道の遠くに一軒の家が見えました。
おじいさんはその家に一晩泊まっていこうとしましたが、
どこからかトッケビたちが姿を現わしたのです。
怖くなったおじいさんはぎゅっと目をつぶって眠ったふりをしました。
薄目を開けて辺りを見回すと、トッケビたちの姿は見えず、
笑い声だけが聞こえてくるではありませんか。
「何だ、これは。トッケビに化かされたのかな?」
トッケビたちの姿が見えないのはトッケビが持っているカムトゥ、冠の力でした。
次の日、おじいさんはトッケビたちが忘れていったカムトゥ、隠れ笠と袋を手に
市場へ向かいました。
トッケビの隠れ笠をかぶったおじいさんは大きな袋に
餅や米、反物、お金などを入れました。
「おや?反物とお金が消えてしまったぞ?」
物を盗んだおじいさんがすぐ隣にいても誰も気がつきません。
「何だ、これは!どうなっているんだ。」
大変です。
ネズミがかじったのか、トッケビの隠れ笠に小さな穴が開いてしまったのです。
おじいさんは急いで赤い布で穴を繕いました。
そして、その日もまたトッケビの隠れ笠をかぶって市場に出かけました。
ところが。
市場の人たちの目にトッケビの隠れ笠を繕った赤い布が見えました。
「おい!泥棒だ!あの赤い布切れが盗っ人に違いない!」
集まってきた商人たちが赤い布切れをめがけて棒を振り回しました。
「うわ!助けてくれ!」
おじいさんは頭を抱えて家に逃げ帰りました。
その後、おじいさんはどうなったのでしょう。
おじいさんは台所へ行って、トッケビの隠れ笠をかまどに投げ捨ててしまいました。
「ばあさん、わしは盗んだ物を返してくるよ。」
「あいよ。じいさんの好きな芋をふかしておきますね。」
おじいさんは再び自慢の帽子、カッを作り始めました。
そして、おばあさんといっしょにいつまでも仲良く、幸せに暮らした、とさ。
2024-03-21
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