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自叙伝『7つの名を持つ少女』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2023-11-23

玄海灘に立つ虹


〇本日ご紹介する本は、イ・ヒョンソの自叙伝『7つの名を持つ少女』です。私は韓国語で読んだのですが、韓国語のタイトルは『이현서, 나의 일곱 번째 이름』。もともと英語で出て、日本、韓国を含む世界各国で翻訳出版されてベストセラーとなっています。
この本を読んだきっかけは、実は先月、映画関係者の飲み会の席でイ・ヒョンソさん本人に会ったんです。きれいな人だなと思って、「女優さんですか」と聞いたら、「作家です。自叙伝を書きました」と言うので、自叙伝を書くということは、かなりの有名人か何か特別な経歴のある人なんだな、と思って話をよくよく聞いていると、脱北者でした。私はこれまでも取材で脱北者に直接会って話を聞いたことはあったのですが、これまで知ってる脱北者とはかなり違うケースで、話を聞いてるだけでも映画みたいな人生だと思ったのですが、すでにドキュメンタリー映画には出ていて、今年の釜山国際映画祭でも上映されていたようです。そういう関係で映画関係者の飲み会に来てたんですね。さらにヒョンソさんを主人公にした劇映画を作ろうという話も出ているそうです。

〇7つの名前というのは、もちろん脱北してというのもあるのですが、そもそも北朝鮮にいる間にも名前が変わっていて、お母さんがヒョンソさんを生んですぐに離婚して再婚したというのもあって、その時に名前が変わったりしてるんですね。ヒョンソさんは1980年、北朝鮮生まれで、97年に脱北して中国へ、2008年に中国から韓国へ来ました。すごく記憶力がいいみたいで、幼い頃についてもとても詳しく書かれています。お父さんが軍人で比較的裕福だったようですが、引っ越しが多かった。それゆえ、北朝鮮のいろんな都市や地方の様子も出てきます。例えばヘサンという都市は中国と近いのもあって密輸が盛んに行われていて、ヒョンソさんのお母さんも密輸でお金を稼ぎます。

〇ヒョンソさんの脱北は一言で言えば、「好奇心」が理由でした。外に出てみたいという好奇心。こっそり中国に行って戻るつもりでしたが、中国に出たという噂が立ち、戻るに戻れなくなってしまいます。お母さんから「危ないから戻ってこないで」と電話を受けるんですね。家族に会えないという事態になって初めてその深刻さに気付くのですが、時すでに遅し。
ヒョンソさんは中国では不法滞在者なので、少しでも身分を安定させるために周りは中国の男性と結婚させようとします。デートを重ねて結婚の段取りが進むけども、相手のことが好きなわけではない。好奇心で脱北したぐらいの性格なので、10代で望まぬ結婚をするというのは、耐えがたかっただろうと思います。悩んで悩んで、結婚式の数週間前に逃げ出します。

〇脱北者の自叙伝というと、いかに貧しい生活に耐えて命からがら脱北して、でも出てからも苦労して…というのを想像しがちなのですが、この本はちょっと違って、両親や本人の恋愛についても書かれていて、何か身近な感じがします。直接会った本人も明るくてよくしゃべるお姉さんで、面白い人でした。もちろん苦労はしていますが、2008年に中国から韓国に行くのも、好きな男性と結婚したくて、なんですね。上海から仁川経由タイ行きの飛行機に乗って、経由地の仁川で亡命申請をします。
ところが、中国で10年以上中国人のふりをして暮らしてきたので、パスポートが本物なんですね。脱北者は普通、偽物のパスポートを持っているらしく、ヒョンソさんはなかなか脱北者と信じてもらえません。国家情報院でも、脱北者のふりをしている中国の朝鮮族と疑われ、調査官がヒョンソさんの目をじっと見ながら質問してくるので、ヒョンソさんは自分に気があるのかと勘違いしたそうです。『殺人の追憶』のソン・ガンホみたいに目を見たら嘘か本当か分かる、と考えている調査官だったんですね。脱北者と認めてもらうまでに3カ月もかかったそうです。

〇韓国の街並みを初めて見たヒョンソさんは「病院が多いな」と思ったそうです。街中の教会の十字架が病院に見えたんですね。様々なカルチャーショックを受けながらも、韓国に適応し、何より、北朝鮮でも中国でも得られなかった「自由」を手にしてたくましく生きるヒョンソさんは現在40代前半、「人権活動家」という肩書で紹介されることが多いようですが、私が本人に聞いたのは金融関係の会社を経営していると言っていました。ものすごいバイタリティーで今後またどんな活躍を見せてくれるのか、楽しみです。
冒頭で申し上げた通り、この本は日本語でも出ていて、さらにヒョンソさんを含む脱北者たちのドキュメンタリー映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』は日本では来年1月に公開予定だそうですので、ぜひ劇場でも見てもらえたらと思います。

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