メニューへ 本文へ
Go Top

文化

映画「福岡」

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2020-10-16

玄海灘に立つ虹


〇お久しぶりです。成川です。7月末に日本に一時帰国したんですが、コロナでいろいろ難しい状況で、まだ韓国に戻れておりません。武田さんとは先日韓国観光公社福岡支社のオンラインセミナーで韓国映画のロケ地についての対談を一緒にさせていただいたんですが、だから、というわけではないですが、本日は、映画「福岡」をご紹介したいと思います。チャン・リュル監督が福岡で撮った作品なんですが、私も撮影当時、韓国から福岡に飛んで、撮影の様子を取材してきました。炊き出しのお手伝いもして、クレジットにも名前を入れていただいた、という個人的に思い入れのある作品でもあります。


〇韓国では8月に公開されたんですが、まだ日本での劇場公開については聞いていなくて、昨年9月のアジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映されました。私は昨年11月のソウル独立映画祭で拝見しました。チャン・リュル監督の作品は、分かりにくい、という人もいるんですが、私は分かりにくいのは認めたうえで、それもひっくるめて好きなんですが、「福岡」もなかなか抽象的な映画です。まず、主演は、クォン・ヘヒョ、ユン・ジェムン、パク・ソダムの3人で、映画の中の役名もそのまま、ヘヒョ、ジェムン、ソダムです。パク・ソダムはいまや「パラサイト 半地下の家族」で世界的に注目される俳優になりましたよね。


〇私が撮影を直に見たのは、福岡で、主演3人が古本屋に入っていくシーンだったんですけど、実はそのシーンを撮る直前にお昼ご飯(カレーライス)の炊き出しをやっていて、パク・ソダムさんが食べているのも間近で見ていたんですが、ご飯食べてる時はオーラというオーラはあまりなくて、え?ほんとにパク・ソダム?というぐらい普通な感じだったのが、撮影で向こうから歩いてくると、それだけで絵になるんですね。さすがだなと思いました。

3人の関係を言うと、ジェムンとヘヒョは大学の時に同じ女性に好意を持っていて、それがきっかけで仲違いしたまま時を経る。ソダムはジェムンが韓国で営む古本屋の常連客だが、ある日突然福岡に二人で旅行に行こうと言い出す。一方、ヘヒョは福岡で居酒屋を営んでいて、そこへジェムンとソダムがやってくる。

という風に福岡での話が展開していくんですが、さっき福岡で撮影を見学した時に古本屋に3人が入って行ったって言いましたよね? 映画を見ていると、この古本屋が福岡なのか、韓国なのか、福岡と韓国がつながってるのか?と思う部分があって、そのあたりがチャン・リュル監督らしいんですが、不思議な空間、時間が体験できる映画です。


〇チャン・リュル監督の映画は「何も断定できない」のが特徴だなと思います。「福岡」の前の作品に「群山」という映画があって、これはムン・ソリとパク・ヘイルが主演でしたが、ユン・ジェムンとパク・ソダムも出てました。特にパク・ソダムは、この「群山」でいつも持っていた日本人形を再び「福岡」で手にしたり、関連性も見えるんですが、かと言って、続きだとか同じ人物と言えるわけでもない。でも、「福岡」を見る前にぜひ「群山」を見てほしいとは思います。


〇そもそもチャン・リュル監督が福岡で映画を撮ることになったのは、映画祭でたびたび福岡を訪れていたのがきっかけだったんですね。私も福岡に何度か行って感じたのは、やっぱり韓国と近いな、ということ。地理的に近いので韓国からの旅行客も多いし、福岡の人も釜山は国内のような感覚で行くみたいで。そういう意味で、福岡って日本?韓国?韓国とつながってる?という感覚になるし、チャン・リュル監督もそう感じたからこそ、古本屋の空間が福岡なのか韓国なのか、つながってるのか、と感じさせるような描き方をしたのじゃないかな、と思います。古本屋に限らず、映画全体をそういう境界の曖昧さが覆っている作品です。


〇チャン・リュル監督って中国出身の朝鮮族なんですよね。なのである意味自分の中に中国と韓国両方を持っている、境界の曖昧さというのが自身の中にあって、それがいつも映画に表れている。見ていると、当たり前と思っていることは実は当たり前じゃないかもな、という気持ちにさせてくれる、おもしろい監督です。俳優たちに人気の監督でもあり、低予算のわりに、キャストは毎度豪華なんですよね。「福岡」の日本公開、どこか配給社さま、ぜひ「群山」とセットでよろしくお願いします。

おすすめのコンテンツ

Close

当サイトは、より良いサービスを提供するためにクッキー(cookie)やその他の技術を使用しています。当サイトの使用を継続した場合、利用者はこのポリシーに同意したものとみなします。 詳しく見る >