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文化

小説「パチンコ」

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2021-05-07

玄海灘に立つ虹


今日ご紹介する本は、小説「パチンコ」です。著者はミン・ジン・リーという韓国系アメリカ人で、英語で書かれた小説です。韓国の小説ではないですが、「パチンコ」というタイトルからも想像できるように、在日コリアンについて書かれた小説で、アメリカでベストセラーとなり、日本でも韓国でも翻訳出版されています。大作で上下巻あるので私は日本語で読みました。


今回取り上げようと思ったのは、ユン・ヨジョンさんがアカデミー賞助演女優賞を受賞して話題になっていますが、この小説「パチンコ」がアメリカのApple TV+でドラマ化されて、ユン・ヨジョンさんも出演しているんですよね。イ・ミンホ主演で、日本でも関心が高まっていますが、実は武田さんも出演していると聞いたんですが、本当ですか?


四世代にわたる在日コリアン一家の話で、最初は釜山の影島(ヨンド)から始まりますが、時は日本植民地時代、影島の下宿屋の娘、ソンジャが釜山と大阪を行き来して貿易をしているハンスと恋に落ちます。16歳のソンジャが、日本人の少年たちにいじめられているところをハンスが助けてあげたのがきっかけだったんですが、この時ハンスは2倍以上の年齢の34歳。ドラマではこのハンス役をイ・ミンホが演じます。ハンスは済州島の出身ですが、日本での生活が長く、日本語もペラペラ。ソンジャにとってはずっと大人で、しかも日本と行き来している未知の世界の人、他では聞けないような話を聞かせてくれるハンスに惹かれていくんですね。彼の子を身ごもって、当然ハンスが自分に結婚を申し込んでくると思っていたソンジャですが、実はハンスには大阪に妻子がいました。貿易で成功して裕福なハンスですから、34歳で妻子がいるのは当然とも言えるんですが、それだけソンジャが純真で何も知らないんですね。ハンスはソンジャに愛人でいてくれるよう願いますが、ソンジャは拒みます。


父親の籍に入れられない子を妊娠してしまい、ソンジャもソンジャの母も絶望的になっていたのですが、下宿人の若い牧師イサクが助け舟を出してくれます。病弱な自分をソンジャとソンジャの母が看病してくれたお礼の気持ちもあり、事情を知ったうえでソンジャと結婚し、子どもを自分の籍に入れることを提案します。ハンスとは対照的な天使のような男性ですね。イサクはもともと大阪へ渡る予定だったので、お腹に子どものいるソンジャと共に大阪へ渡ります。


ソンジャが大阪へ渡る前、娘の荷造りをする母が、ナツメやトウガラシ、煮干しなどを持たせようとしたという部分を読んで、アメリカの娘一家の元へ韓国の食べ物をいろいろ持ってきた「ミナリ」のユン・ヨジョン演じたおばあちゃんが思い浮かびました。母の想いは共通ですよね。「パチンコ」でユン・ヨジョンがどんな役かというのはまだ公表されていないようですが、楽しみに待ちたいと思います。


ソンジャとイサクは大阪の猪飼野にたどり着き、そこで朝鮮出身者たちの貧しくもたくましく生きる様子が描かれます。ソンジャはもとは内気な少女でしたが、ハンスとの間の子、長男のノア、イサクとの間の子、次男のモーザスの母となり、だんだんたくましくなっていきます。一方、大阪というのは、ハンスがいる場所でもありますよね。ハンスは実はソンジャが大阪へ来たことをいち早く察知して、陰ながら金銭的に援助します。ハンスは妻との間の子どもが3人とも娘で、ソンジャとの間の息子、ノアが大事なんですね。ノアはそんなハンスを実の父とは知らないまま、ハンスの援助を受けて懸命に勉強します。


タイトルは「パチンコ」ですが、在日コリアンでパチンコ店を経営したり、従業員として働く人が多いことはよく知られていますが、小説のなかではソンジャの次男、モーザスがパチンコ店で働きます。モーザスは人生はパチンコに似ていると言います。ハンドルを調節することはできても自分ではコントロールできない不確定な要素があるからです。


植民支配、戦争、戦後…、歴史に翻弄されながら生き抜くソンジャをはじめ在日コリアンの物語が、アメリカを通して小説、ドラマとして世界に知られるというのは不思議な気もしますが、コロナ禍でますます排他的になっていく雰囲気もあるなかで、「ミナリ」のユン・ヨジョンの受賞や、「パチンコ」への注目は、希望の持てるニュースだなと思います。

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