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文化

エッセイ「B級の嫁」

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2021-08-20

玄海灘に立つ虹


今日ご紹介する本は、エッセイ「B級の嫁」です。著者のソン・ホビンさんは映画監督で、同じタイトルのドキュメンタリー映画「B級の嫁」を作っています。私は2017年の全州国際映画祭でこの映画を見て、とってもおもしろかったので本も買って読んだのですが、B級の嫁というのは、監督の奥さんのことで、主に姑との葛藤をドキュメンタリーとして撮って、その過程や映画に入らなかった話などをエッセイに書いています。


サブタイトルが「僕は本当に変な女と結婚したのか?」となっていますが、読んでいって分かるのは、変な女と思っていたけど、よくよく考えると、変なのは自分も含めた周りかもしれない、ということに夫である著者は気付いていきます。奥さんの名前はキム・ジニョン。「82年生まれ、キム・ジヨン」のキム・ジヨンと似ていますが、出産・育児の悩みや姑との葛藤なども重なる部分が多いなと思いました。


まず、自分の妻や母を撮ってドキュメンタリー映画として他人に見せること自体、かなり勇気のいることで、それも内容が嫁と姑の葛藤となると、大丈夫なのかなと心配になります。説得するだけで1年かかったそうです。説得して撮り始めても、最初はカメラの前で演技をするので困ったそうで、長い時間をかけてリアルな姿が撮れたとのことです。嫁と姑の争いもですが、夫婦げんかもかなり激しいです。

監督が本に書いているのは、編集が最もつらかったということ。「多くの夫婦は忘れることで成り立っている」と述べています。激しくけんかをしても翌朝にはご飯を一緒に食べられるのは、忘却の力による、ということです。ところが、夫婦げんかを映像に撮って、それを自分で編集するとなると、忘れていたことも思い出し、さらに何回も見ることになります。編集過程でものすごく憂鬱になったそうです。


私がおもしろいなと思ったのは、この手の話は女性が書くことが多いのが、男性が書いている。男性の立場ではどう感じるのか、どんな部分が理解できないのか、などが分かって新鮮でした。

キム・ジニョンさんは、なんでも思ったことは口にするタイプです。嫌なことは嫌と言います。姑はそれが許せないんですね。例えば、冷蔵庫がいっぱいなのに、姑がキムチを漬けたと持ってくる。普通は内心困ったなと思っても、感謝を述べると思うんですが、ジニョンさんは露骨に嫌がります。キムチを好きなのはジニョンさんでなく、夫である著者です。姑は息子に食べさせたくてキムチを持ってくる。それに対して嫁が礼を言わないと怒る。ジニョンさんは正直なので、なんで私が食べたいわけでもないのにお礼を言わないといけないの、と疑問を述べます。

お礼を言えば済むことなのに…とも思うけども、冷蔵庫がいっぱいで困っているのに息子に食べさせたいがために持ってくる姑にも問題がありますよね。これについて、夫である著者は「母にとっては食べ物も権力なのかもしれない」と書いています。私が作ってあげたんだから、ありがたく受け取りなさいということですよね。


嫁と姑の仲が険悪になり、姑は孫の顔も見られなくなります。かわいそうだなとも思いますが、姑が嘆くのが「周りになんで孫が来ないのと聞かれる」ということで、周りの視線が気になっていることが分かります。嫁がなんで来たくないのかは考えないのかなともどかしい気持ちにもなります。

一方、著者は母が「嫁」だった頃のこともインタビューして書いていますが、名節と呼ばれる旧正月、旧盆の時には1週間前から夫の実家に行って、料理の準備をしたそうです。親戚が多く、大量の料理をしなければならず大変だったという話。自分はそれをやってきた経験があるから、嫁であるジニョンさんが名節にも家に来ないなんて、あり得ないんですね。そうやって姑にも姑の歴史があって、なんでジニョンに厳しく当たるのかというのを知れば、理解できる部分もあります。


時代は変わって、親の世代が当たり前だったことが若い世代には受け入れがたいということは日本でも韓国でもあるとは思いますが、こうして他人の家族の葛藤をドキュメンタリーや本を通して知ることで、いろんな立場になって考えてみる機会にもなるなと思いました。

それより何より、なんでもはっきり言ってしまうキム・ジニョンさんの語録がおもしろく、日本語訳はないと思うんですが、韓国語で読める方にはぜひ読んでみてほしいなと思います。

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