自己啓発本『セイノの教え』
2024-03-21
昔々、あるところに美しい自然が広がる小さな国がありました。
国王は民から敬われ、みんなに愛されていました。
ある日、隣の国から靴売り商人がやってきました。
靴売り商人の目には国王を誉め称える人たちがおかしく見えました。
「あなたたちは本当に王さまのことをそんなに立派だと思っているんですか?」
「王さまには不思議なひき臼があるじゃないですか」
「不思議な...ひき臼?」
「王さまはそのひき臼を回して何でも作ってくださるんですよ」
噂を耳にした靴売り商人は商売をやめました。
そして、あれこれ情報を集め、国王のひき臼を盗む方法を考えました。
無事に王宮に入った靴売り商人は、池のほとりの林に身を隠し、辺りを見回しました。
ところが、池の周りにはたくさんの人が行き交っていて、
ひき臼を盗むことはできそうにもありません。
その時、東屋に入っていく国王の姿が見えました。
国王は東屋の中央に座るとひき臼を右に回しながら、呪文を唱え始めました。
「米よ、出てこい、出てこい、出てこい!」
夜が更けると、王宮の池の周りも静かになりました。
靴売り商人は隠しておいた背負子を背負って、東屋に歩み寄りました。
靴売り商人は背負子にひき臼をのせ、急いで逃げました。
靴売り商人は盗んだひき臼を前もって準備しておいた船に移し、
懸命に櫓を漕ぎ始めました。
「さーて、何から始めようかな。そうだ!塩だ。塩を作ってみよう」
靴売り商人は東屋で国王がしたように、ひき臼を右に回しながら呪文を唱えました。
ところが、ひき臼から吹き出す塩の重さに耐えきれなくなった船が傾き始めました。
「止まれ!止まるんだ!おいこら、ひき臼!止まれと言っているじゃないか」
靴売り商人がいくら叫んでも、ひき臼は塩を吹き続けました。
国王が取っ手を左に回してひき臼を止めた時、
靴売り商人はひき臼から吹き出す白い米に気を取られて、
止める方法を見ていなかったのです。
欲に目が眩んだ靴売り商人はひき臼とともに海に沈んでしまいました。
こうして、海の底に沈んでしまったひき臼は、
誰も呪文を唱えないので、今も塩を吹き出しながら回り続けています。
海の水がしょっぱいのは、海の底で塩を作り続けるひき臼があるからだ、とさ。
2024-03-21
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