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文化

映画「子猫をお願い」

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2021-11-05

玄海灘に立つ虹

今日ご紹介する映画は、チョン・ジェウン監督の「子猫をお願い」です。韓国で2001年に公開された映画で、今年は20周年ということでデジタルリマスター版が公開されているんですが、先日、見てきました。チョン・ジェウン監督と主演のペ・ドゥナ、イ・ヨウォンらの舞台あいさつも見てきました。監督が「20年ぶりに見ると映画よりも自分が見えてくる気がした」とおっしゃってたんですが、まさに私もそうでした。20年前の自分に重なる部分がたくさんあって、懐かしいというか不思議な体験でした。


個人的な話をすると、9月に釜山のイベントでチョン・ジェウン監督と対談する機会がありまして、その時は日韓映画交流に関する話だったので、チョン・ジェウン監督は「蝶の眠り」という中山美穂、キム・ジェウク主演の日韓合作について話したんですが、これが縁で10月の釜山映画祭でも一緒にご飯を食べたりしてお話しする機会もありました。話していて、監督は観察力のある人だなと感じました。人に対する興味というか。だから「子猫をお願い」のような、あの年代らしい女の子たちの会話、けんか、悩み、夢などがリアリティーを持って描けたんだと思います。


日本でも2004年に公開されてDVDも出ているので見た方もたくさんいると思いますが、改めて紹介すると、商業高校を卒業したばかりの女の子5人の群像劇。例えばイ・ヨウォン演じるヘジュは証券会社に入りますが、大卒社員との待遇の違いに悩むなど、それぞれ別々の道で様々な悩みに直面します。

子猫はというと、ヘジュの誕生日にジヨンが贈ったプレゼントなんですが、5人の間でこの子猫を預け合うんですね。それで「子猫をお願い」というタイトルでした。

最近は韓国でも猫が人気ですが、当時は猫を嫌がる人が多かったんですね。監督は「日本で『子猫をお願い』が愛されたのは猫好きの人が多いからと思う」と話していましたが、それもあるかもしれないです。


私は最初に見たのは2002年に韓国に留学してレンタルビデオで見たんですが、ちょうどこの時主人公たちと同じ歳くらいだったんですね。二十歳前後の子どもから大人への過渡期。

女性監督が女性を描く映画、近年は増えていますが、当時としては画期的な作品でした。私が今回見て、20年前にこんな場面描いてたんだなって感慨深かったのは、ペ・ドゥナ演じるテヒが家族でレストランに行った時、テヒがメニューを見ながら何を食べるか考えているのにお父さんが勝手にウェイトレスに一番人気のメニューを持ってくるように言うシーン。テヒはこういうのも暴力だとお父さんに抗議する。ここでテヒが「暴力」という言葉を使うことで、当たり前のようにがまんすべきことじゃないんだって気付きますよね。今でもこういうことはよくあると思います。お父さんがというよりも、年上の男性が主導権を持って勝手に決めて、選択肢をくれないこと。もやっと感じている理不尽を言葉にすることって大事だなと思いました。

 

主人公たちは仁川に暮らしていて、チャイナタウンや月尾島など仁川らしい場所がたくさん出てくる映画でもあります。上昇志向の強いヘジュが仁川からソウルへ出るのが象徴的ですが、ソウルという中心から外れた周辺都市としての仁川。なのでどこか寂しさも漂うような雰囲気でした。

できたばかりの仁川国際空港も登場するんですが、最後の場面、テヒとジヨンがどこへ行くのか分からないけども出発便の電光掲示板を見て振り返るところで終わります。どこか分からないけど、どこにでも飛んでいきたい余韻。私はこの次の年、2002年に同じ仁川空港に降り立って、初めての韓国留学が始まるんですが、この時の解放感を思い出しました。あ、私、解放されたかったんだって。変な話ですが20年経て初めて気付きました。


なんで「子猫をお願い」を見たらこんなにも当時を思い出すのか、考えてみたら、ムンチャ、携帯電話のメッセージがスクリーンにたびたび登場するんですね。5人の女の子のやりとりの内容が。当時よく使った絵文字だったり、文字の打ち方、そういうものに自動的に脳が反応して当時に引き戻されるんだと思います。


日本でも来年、デジタルリマスター版が公開されるらしい、と聞いています。私は今回初めて劇場で見て、これまで何度か見ている作品だけども今回一番良かったと感じたのはやっぱり劇場だったからだと思います。ぜひご覧いただければと思います。

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