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文化

映画『オマージュ』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2022-06-02

玄海灘に立つ虹


本日ご紹介する映画は、シン・スウォン監督の『オマージュ』です。先日のカンヌ国際映画祭ではソン・ガンホが男優賞、パク・チャヌク監督が監督賞を受賞し、取るべき人が取ったという感じですが、ソン・ガンホさんが是枝裕和監督の作品で受賞したというのもうれしいですよね。実は『オマージュ』のシン・スウォン監督も短編映画『循環線』と『マドンナ』で2度カンヌに招待され、『ガラスの庭園』は釜山国際映画祭開幕作として上映されるなど、評価は高いんですが、日本ではなかなか劇場公開されず。私は監督のファンなので残念に思っていたんですが、今回の『オマージュ』は日本で劇場公開されるみたいです。『オマージュ』は今韓国で公開中ですが、昨年の東京国際映画祭で上映されたので日本でもすでに見た人もいると思います。


『オマージュ』はイ・ジョンウン主演。『パラサイト』の家政婦役、最近ではドラマ『私たちのブルース』にも出ていて、日本でもかなり知られているだろうと思います。キャスティングについて、シン監督は「『オマージュ』は主人公が核心で、主人公が出ていないシーンはないぐらい。なので表情など多彩な演技を見せてくれる俳優がいいと思った」と話していました。イ・ジョンウンさんが演じたジワンは女性監督で、1960年代のある映画の修復に携わります。


ジワンのモデルはシン・スウォン監督、修復する映画はホン・ウノン監督の『女判事』、1962年の作品です。ホン・ウノン監督は韓国で2人目の女性監督ですが、韓国初の女性監督はパク・ナモク監督。パク監督は1955年、『未亡人』という映画を作っていますが、この1本だけ。ホン監督は『女判事』含め3本を作りました。


シン監督にインタビューする時、ある人に「監督の作品はいつも探偵のように謎を解いていく感じがあるがなぜか聞いてほしい」と言われたことがあり、聞いてみました。監督は以前、テレビドキュメンタリーを撮った時に、ホン・ウノン監督の足跡をたどったのが楽しく、その後作る映画が「探偵みたい」と言われるのはその影響だろうと話していました。

シン監督はドキュメンタリーを撮る時に、ホン監督の娘をはじめ関係者に話を聞いた経験があり、それが今回の『オマージュ』に生かされています。実はドキュメンタリーを作った時点では『女判事』はフィルムそのものがなくなっていたんですが、その後フィルムが見つかりました。私も今回、『オマージュ』がきっかけで『女判事』を見ましたが、予想以上におもしろかった。こんな才能ある監督がなぜ撮り続けられなかったんだろうと考えた時、たぶん女性だったというのはあったと思います。男性中心の映画界で、女性監督が生き残るのは非常に厳しかったようです。

『オマージュ』には編集技師の女性がかつては編集室に入るだけで「縁起が悪い」と塩をまかれたというエピソードが出てきますが、これはシン監督が実際、ドキュメンタリーの取材の過程で聞いた話だそうです。


ホン・ウノン監督は、ほとんど忘れられた存在だったんですが、シン監督いわく、「女性監督の中でも最初じゃなく2人目だったということもあり、さらにフィルムが3本ともなくなっていた」というのが、その理由のようです。『女判事』が見つかり、映画『オマージュ』でオマージュしたことで、その存在がやっと多くの人に知られるようになりました。オマージュは「尊敬」「敬意」という意味で、「敬意を払って引用する」という意味でも使われますが、映画『オマージュ』では『女判事』のいくつかのシーンが引用されています。


近年韓国では本当に女性監督が増えてきましたが、10年以上コンスタントに撮り続けている女性監督は数えるほどなんですよね。そのうちの一人がシン・スウォン監督。シン監督自身の苦労話も主人公ジワンを通して描きつつ、自分よりずっと厳しい時代に映画を撮ったホン・ウノン監督を称える映画『オマージュ』。ぜひ日本公開時に見てほしいなと思います。


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