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文化

小説『韓国が嫌いで』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2022-08-18

玄海灘に立つ虹


〇本日ご紹介する本は、チャン・ガンミョンの小説『韓国が嫌いで』です。最近映画化のニュースが報じられて、読んでみました。韓国では2015年に出た小説で、日本でも翻訳出版されています。映画はチャン・ゴンジェ監督、コ・アソン主演で7月末にクランクインしたようです。チャン・ゴンジェ監督といえば日本の奈良で撮影した『ひと夏のファンタジア』の監督、コ・アソンはこのコーナーでも紹介した『サムジンカンパニー1995』の主演俳優です。


〇主人公ケナは女性で、韓国社会での生きづらさが描かれたフェミニズム小説とも言えるのですが、著者のチャン・ガンミョンさんは男性。私は実は2018年にtvNの「外界通信(외계통신)」というテレビ番組でチャン・ガンミョンさんと一緒に出演したことがあり、東亜日報記者出身の小説家というのは知っていたんですが、『韓国が嫌いで』の作家だというのは最近気づきました。

さすが記者出身というか、実話なの?と思うくらいリアリティの感じられる小説です。ケナは韓国からオーストラリアへ移住するのですが、著者の経験に基づく話なのかなと思ったら、韓国からオーストラリアに留学した人や移住した人にインタビューして書いたのだそうです。


〇ケナはある意味平均的な韓国人女性。すごく貧しかったり、家族の仲が悪かったりということでもなく、自分が通っている会社は金融会社、付き合っている彼はまあまあ裕福で優しくて、なぜ一人でオーストラリアに移住するの?と読み始めた時には不思議な気もしました。小説の冒頭でオーストラリアへ出発するシーンがあり、「なぜ韓国を離れるのか。要約すると『韓国が嫌いで』」と、タイトルの言葉が出てきます。ケナは韓国の何がどう嫌いなのか、オーストラリアではそれがどう違うのか、あるいは同じなのか、ということが書かれた小説と言えます。


〇ケナが韓国で長く付き合った彼と別れた理由の一つは彼の両親でした。彼のお父さんは大学教授、ケナのお父さんはビルの警備員。彼の両親はケナに会う前から息子の結婚相手にケナはふさわしくないと思っていて、初対面でケナのことを露骨に無視します。ケナ本人を見ようとしないんですね。ケナは彼の両親の態度に怒って、彼に言います。「欧米人なら息子の彼女に会ったら最近見た映画のことや好きな音楽のジャンルを聞くはず」と。息子の彼女の価値を父親の職業で決めるのが許せないんですね。ケナは自分のことを「韓国では競争力のない人間」と言います。そういう韓国の階級から解放されたくてオーストラリアに渡ったようです。


〇ケナはオーストラリアでアルバイトをしながら英語を学ぶという生活を始め、何人かの男性と付き合いますが、そのうちの一人、インドネシア人男性が印象的だったのが、オーストラリアに来ている韓国人がインドネシア人を見下しているという話。オーストラリア人と欧米人の下に日本人、韓国人、中国人、その下に南アジアの人たちというふうに見ていると彼は指摘し、でも実はオーストラリア人や欧米人の目から見たら、英語のできるアジア人と英語のできないアジア人にしか見えないと言います。韓国からオーストラリアへ移住した人たちが、韓国の階級社会から抜け出したようで、またオーストラリアでも階級を意識している。ケナはそうでないからインドネシア人と付き合ったようですが、その彼が結婚してインドネシアで一緒に暮らそうと言うと、即答できない。それはインドネシアについてよく知らないからでもありますが、即答できないケナに彼の方が心を閉じてしまいます。韓国人がインドネシア人を下に見ているという意識はケナよりも彼の中に強くあったように感じました。


〇ここでケナとインドネシア人の彼が重なるように感じたのですが、実はケナの彼も、ケナのことを決して下に見ていない。彼は両親が反対してもケナと交際を続け、結婚したいと思っていました。財閥ならまだしも、大学教授の息子が特別な存在でもなく、彼は自力でがんばって勉強して目標だった記者になります。韓国の階級社会にしばられていたのはむしろケナの方ではという気がしました。

一方、ケナは韓国で適応してがまんするという選択ではなく、いったん外に出てみるという選択をした。それはそれで意味のある選択で、ケナが一回りも二回りも成長するきっかけになったと思います。小説としてはケナの目を通して、外から見る韓国という視点を読者が共有することになります。私はなんとなく韓国にいながらも外国人として一歩離れて見ている面があるので、共感する部分がたくさんありました。翻訳版も出ているので、ぜひ手に取って読んでみてほしいなと思います。


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