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文化

小説『夢を売る百貨店』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2022-09-15

玄海灘に立つ虹


〇本日ご紹介する本は、イ・ミイェの『夢を売る百貨店 本日も完売御礼でございます』です。長いタイトルですが、これは日本語版のタイトルで、韓国の原題は『달러구트 꿈 백화점』です。シリーズ1が2020年、2が昨年出て、韓国では100万部売れたベストセラーのファンタジー小説。著者のイ・ミイェさんは1990年生まれの女性で、本のプロフィールには「釜山大学で材料工学を学び、半導体エンジニアとして働いた」とあります。ちょっと変わった経歴の若い作家さんです。


〇タイトル通り、夢を売る百貨店の話なのですが、百貨店の名前が、原題の「ドルグート夢百貨店」、経営者の名前がドルグートです。背景はどこの国、時代というのは特になく、ファンタジーの世界。青少年の読者も多いんだろうなと思います。妖精が出てきたり、サンタクロースが出てきたり、百貨店に動物が夢を買いにきたり。主人公はペニーという若い女性で、憧れのドルグート夢百貨店に就職します。読者としてはペニーの目線で、百貨店がどのように運営され、どんな夢をどんなお客さんが買っていくのかがだんだん分かってきます。


〇お客さんたちそれぞれのエピソードが出てくるんですが、例えば、「好きな人が出てくる夢」を何度も買う女性のお客さん。ペニーはだんだん心配になります。「好きな人が出てくる夢を買い続けるというのは、実際には好きな人との間で進展がないということでは?」という心配です。一方で、女性が思いを寄せる相手の男性は「別れた彼女と会う夢」を何度も買っています。夢の代金は後払いで、夢を見て何の感情もわかなければ払わなくていいのですが、男性は別れた彼女と夢で会っても次第に感情がわかないようになり、そんな時に、「好きな人が出てくる夢」を買い続けていた女性が勇気を出して男性にアプローチします。というふうに小説の中の夢と現実が交差します。


〇「空を飛ぶ夢」とか、見てみたいなと思ういろんな夢が出てきますが、「予知夢」というのもありますよね。未来のことをあらかじめ夢で知るという予知夢ですが、ドルグート夢百貨店では予知夢も売っているけども、誰にでも売るわけではない。宝くじの当選番号が知りたいとかいう理由では売らないんですね。予知夢といっても、自分の望む場面が見られるわけでなく、未来のいつどんな場面が見れるか分からない。


〇シリーズ2ではペニーが就職2年目に入り、百貨店だけでなく、カンパニー区域に出入りできるようになるんですが、カンパニー区域というのは夢づくりに関わる制作会社や機関があって、なんとなく夢を映画に置き換えるとアメリカのハリウッドのイメージかなと思いました。人気の夢制作者はみんなの尊敬の対象で、映画でいえばポン・ジュノのような著名監督のような感じです。

毎年年末には夢の授賞式があって、新人賞、美術賞などがあるという部分からも、映画みたいだなと思ったのですが、そもそも映画を見るのも、夢を見るのと似ているかもしれないという気もしました。


〇100万部のベストセラーになったのは、コロナ禍で旅行にも行けない、何か自分の周りの世界が小さくなったような環境で、夢の世界が広がるファンタジーが癒しにもなったのではないかなと思います。お金を払ってでも好きな夢が買えるといいですよね。私は個人的には、この小説を読んで、これまであまり考えなかった夢について考えるようになりました。寝ている時間というのは実は人生の中でとても長い時間を占めていて、私の場合は日常的に締め切りに追われているせいか、約束に遅れて焦っている夢、道に迷ったり何かをなくして探したりという夢を本当によく見るんですが、夢は夢でもその間にストレスを感じているのかもと考えるようになりました。寝る直前まで原稿を書いたりせず、気持ちよく、できればいい夢が見れるような工夫をしようかなと思うようになりました。

夢って本当に不思議で、いまだに解明されていないことがたくさんありますが、皆さんもこの小説を読んで、不思議な夢の世界を味わってみてほしいなと思います。


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