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ライフスタイル

大学教育と産業界

#マル秘社会面 l 2021-09-29

玄海灘に立つ虹

ⓒ YONHAP News

今月初めに朝鮮日報が3回にわたり『採用ミスマッチ』という特集記事を掲載しました。産業界の求めている人材と現在の大学教育の間には距離があるという話です。そこで今週はこの特集記事の内容を中心に、現在の韓国の大学教育を考えてみたいと思います。


ミスマッチその1

韓国では毎年35万人が4年制大学を卒業しますが、その半分は人文系の学生です。しかし企業側が求めている新入社員の80%以上が理工系の学生だといいます。

2020年のソウル最上位圏大学の就職率を学科別に見てみると人文系の哲学科28.6%、中国語科55.6%、一方で材料工学科は85.7%、コンピューター工学科は76.6%の就職率でした。ソウルの他の大学でも人文系の卒業生は半分以上が就職できませんでしたが、理工系は大部分が就職に成功しています。

そしてこのような状況はソウルだけではなく地方の大学でも同じです。釜山の大学でも情報コンピューター工学科、機械工学科、航空宇宙工学科の就職率は70%を大きく超えました。ソウルの主要大学の人文系の卒業生よりも、地方大学の理工系卒業生の方が企業に歓迎されているということです。

企業で言えば、サムスン電子、現代自動車、SKハイニックスなどのメーカーだけでなく、ネイバーのような企業でも理工系の卒業生を80%以上採用しています。専門家は高校時代からの文系・理系の区別自体が今の時代には合っていないと分析しています。

これまでは人文系の学生をたくさんとっていた銀行などの金融会社、さらにメーカーのマーケティング、財務、人事分野でもデジタル転換により理系の人材を欲しがっています。企業の関係者は「最近はマーケティング戦略にデータを活用し、営業現場でも人工知能(AI)に基づく推薦技術を使うため、それに対する基本的な理解がある理系人材を優先している。会計や財務などの分野もプログラムさえ使えればよいので、理系人材を活用する幅が広い」と説明しています。


ミスマッチその2

 専門家は「大学は急速に変化する産業現場と懸け離れた理論教育ばかりに力を入れている。そのため人材のミスマッチが深刻になっている」と指摘します。KAIST(韓国科学技術院)の教授は「米国のマサチューセッツ工科大学やプリンストン大学、など海外の主要大学はヒューレット・パッカードやインテルなどのグローバル企業と共同で研究所を立ち上げ、大学と企業に必要なエンジニアを養成しているが、韓国では大学が産学協力に消極的で、これが現場に通じた人材養成の障害になっている」と指摘します。

また産業界では半導体やバッテリー、ソフトウエアなどハイテク分野の比重が高まり多くのエンジニアが求められていますが、大学新卒者はその能力が企業の求めるレベルに達していないといいます。ある半導体メーカーの役員は「新入社員のほとんどが専攻分野の教科書を読んできただけで、半導体製造ラインがどうなっているかを見学したことさえない」「大学の半導体関連学科の教授たちには10年以上前から教育の見直しを求めてきたが、実際は何も変わっていない」と話しています。

理論中心の大学教育に問題があるという指摘です。


ミスマッチその3

教育界では「金太郎あめのようにどこの大学も同じような百貨店式の学科開設」「専攻利己主義に陥った教授たちによる古い教育課程(カリキュラム)」などが問題だと指摘されています。

例えばソウル大学人文学部はアジア言語文明学部が新たに一つ追加されたほかはこの30年間学科の構成が全く変わっておらず、工学部や社会学部も一部の学科が学部に改編、あるいは名称が変わっただけで中味はそのままです。

ビッグデータ、人工知能、スマートシティーなど第4次産業革命に関わる新しい産業分野についても従来の学科の名称が少し変わっただけで、教授陣や講義の内容は従来と全く変わっていないケースもあります。首都圏のある大学は「基礎数学」という科目名称を「AI基礎数学」に変更しただけです。

韓国科学技術院(KAIST)の教授は「韓国における工学部の専攻科目は1970-80年代に日本に追い付くために作られたカリキュラムです。これは他人が作った問題とその答え方を同じように再現することを目指すものです」「これまで世の中になかった技術が日々生まれているのに、問題を解くための授業ばかりを続けていると、大学は産業の発展に貢献できなくなる」と指摘します。

3回にわたって掲載された、この特集記事の言いたいところは産業界の求めている人材を育成できるように大学も変革が必要だということでしょう。でも私は思います。私が子供の頃に一番人気のあった理系の学科は造船でした。その後、それが電子に変わり、今はAIでしょうか。時代の流れに合わせて大学も変わるべきではありますが、変わらないことも大学に求められていると思います。基礎科学の研究がそういう分野だと思います。最先端も大切ですが、最も基礎的な学問分野にも関心を向けて欲しいです。

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