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ライフスタイル

お母さんたちの劇団奮闘記・映画『タレントショー』

#ソウル・暮らしのおと l 2023-04-14

金曜ステーション

ⓒ YONHAP News

今日は、私が最近見たドキュメンタリー映画についてご紹介します。あるお母さんたちの劇団を追った物語です。といっても、平凡なお母さんたちの劇団ではなく、数年前のある大きな事故で高校生の子どもを亡くしたお母さんたちが役者となっている劇団なんです。


…というと、重い内容を想像するかもしれませんが、そんな予想を良い意味で裏切ってくれます。オープニングは、女子高生に扮したお母さんたちの舞台のシーン。ちょっとぎこちない演技ながらも、明るく歌って踊る姿がチャーミングです。


彼女たちは、事故で子どもたちを失ったショックの治癒のために演劇をやってみないかと勧められたお母さんたちです。もちろん全員演技の経験なんて全くなし。周りの熱心な勧めを断りきれず、渋々と演劇に参加します。そうして、地元の演出監督の協力で作り上げた最初の舞台は大成功。そこから演劇の面白さを知ったお母さんたちは、どんどん舞台の経験を重ねていきます。そして、第3弾の 「タレントショー」というお芝居を準備する過程が、このドキュメンタリーの中心となっています。


ⓒ YONHAP News

ところがこの話、「悲しみを乗り越えて演劇でひとつになる」というようなありがちな物語には収まりません。役者のお母さんたちは、だんだん舞台への本気度が増し、主役の座をめぐってバチバチ火花を散らす、なんてシーンも。でも、そんな摩擦の中でも、お母さんたちは自分の感情にとても率直で、ユーモアがあって、ハラハラしながらもくすっと笑ってしまいます。

彼女たちが練習する「タレントショー」というお芝居は、修学旅行を控えた高校生たちが旅行先で発表する出しものを考える、という内容。お母さんたちは、実際には修学旅行に行くことが叶わなかった自分の子どもたちを投影しながら、この舞台を演じます。


ⓒ YONHAP News

じつはこの映画は、セウォル号沈没事件で犠牲になった高校生のお母さんたちの劇団を描いたものなんです。4月5日に公開となった映画『タレントショー(장기자랑)』です。

セウォル号事故はここ10年の韓国社会での一番大きな惨事として記憶されています。被害者遺族たちは、真相究明のために街頭や国会などで訴え続けました。そのためにひどい誹謗中傷を受けるなど二次被害にあったりもしました。何より、「被害者はこうあるべき」というイメージにさらされてきました。映画に登場するあるお母さんは、こう打ち明けてもいます。「笑っていると、子どもを失っておいてよく笑えるな、などと言われ、悲しんでいると いつまで悲しんでいるんだと言われる。人前でご飯も食べられなかった」。 


この映画はそんな固定観念を打ち破って、生身のお母さんたちの姿を見せてくれます。もちろん、お母さんたちは明るい姿ばかりでなく、トラウマに苦しんでいる姿も見せます。それでも、子どもたちのことを忘れないでほしいという一心で、大勢の前で演劇をするお母さんたちに、ただただ胸を打たれました。言葉どおり、泣いて、笑って、また泣いた映画でした。


この4月16日で、セウォル号事故から9年目を迎えました。この映画が日本で公開されるかはまだわかりませんが、ぜひ多くの人に見てほしいなと思いました。

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