「事前制作ドラマ」とは、放送前に撮影や編集を終えるドラマのことです。韓国では、ドラマの放送は「生中継」に例えられるほど、放送時間ぎりぎりまで最後の編集を行うことが少なくありません。ですから「事前制作ドラマ」は韓国ドラマとしてはめずらしいといえます。
これまで事前制作ドラマがまったくなかったわけではありません。日本でもおなじみの『チェオクの剣(茶母)』は半事前制作ドラマとして知られています。全体の半分くらいの撮影を終えた時点でドラマの放映が始まりました。ただ、半事前制作ドラマを含めた事前制作ドラマのほとんどは、視聴率の面では惨敗を免れない水準で、この数年は見られなかったのが実状です。
そんな事前制作ドラマが復活したのは、2014年に放送されたSBSドラマ『大丈夫、愛だ』とケーブルテレビのOCNドラマ『悪い奴ら』が健闘したからです。いずれも半事前制作ドラマで、作品性、視聴率ともに好成績でした。特に『悪い奴ら』はOCNとして最高の4.3%を記録しました。このふたつのドラマの成功によって、事前制作システムは「高いクオリティーを保障してくれる革新的なシステム」だという認識が広まったのです。こうしたことから、OCNでは今年もドラマ『失踪ヌワールM』で半事前制作システムを取り入れており、KBS『太陽の末裔』、SBS『サイムダン、the Her story』は完全事前制作システムを取り入れる予定です。
しかし、事前制作システムが定着するかどうかは不透明だという見方が支配的です。番組制作の関係者らは「編成と放映権に対する保証がないのでリスクが大きい」とみています。韓国のドラマ放送システムではドラマを編成し放映するのは放送局にすべて権利があります。ドラマを撮っても放送局で編成してもらえなければ日の目を見ません。また、政治や経済、文化的な問題によってドラマが放送できなくなる場合もあり、そうしたリスクはすべて制作サイドが負担しなければなりません。
それに制作費の問題もあります。韓国ではドラマを4話ぐらい放送してからでも視聴者の反響によっては制作支援をさらに受けることができます。それが、事前制作だと、企画の段階で制作費の支援を受けなければならないため、支援には限界があるというのです。そうなると制作費が上がることになり、その分制作や放送局の負担につながります。
一部では、今の韓国の制作環境では、事前制作は不可能だと断言する人もいます。事前制作の持つリスクをすべて吸収できるほど韓国のドラマ市場は大きくないという意見です。100%事前制作システムが一般化している日本やアメリカに比べると市場規模はごく小さく、ドラマの視聴率や興行に一喜一憂せざるをえないのが、韓国ドラマの制作環境の現実だというのです。そのためもっと市場を大きく育ててからでないと、事前制作システムは定着するのが困難だとみる専門家が少なくありません。
こうした雰囲気の中で、100%事前制作システムの導入を掲げた『太陽の末裔』と『サイムダン、the Her story』が成功すれば、事前制作システムの定着を一気に早めることができるでしょう。前者は5月に除隊する人気俳優ソン・ジュンギの復帰作、後者は『チャングムの誓い』の女優イ・ヨンエの11年ぶりのドラマということでいずれも話題をさらっていますが、事前制作ドラマの成否という意味でも注目が集まっています。