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ライフスタイル

絵本「左手へ」

#ソウル・暮らしのおと l 2024-05-10

金曜ステーション

多くの右利きの人の場合、右手ばかり酷使してしまいがちです。手は二つあるのに、いつも使われてばかりの右手は、どう思っているのでしょうか。今日は、右手と左手の関係を描いた「左手へ (왼손에게)」という絵本です。
 
ⓒ 한지원, 사계절
「もうがまんできない、今日こそ絶対に言ってやる」
右手は悔しがっていました。スプーンを使うのも、歯を磨くのも、櫛で髪をとかすのも、ぜんぶ右手の仕事。それなのに、ハンドクリームをつけるときはいつも左手が先で、澄まして手の甲を差し出します。その上、ぴかぴかの指輪も、素敵な腕時計も、みんな左手が身に着けてしまいます。
どこからどう見ても同じ手なのに、どうして? 右手の不満は爆発寸前です。

ⓒ 한지원, 사계절
そんなある日。右手は左手の爪にきれいなマニキュアを丁寧に塗ってあげていました。次は私の番だ、とわくわくしながら。
ところが、左手が右手の爪に塗ってくれたマニキュアは、はみ出てムラだらけで、めちゃくちゃ。右手はついに大声をあげました。
「わざとやったんでしょ?!」
「ちがうよ、一生懸命塗ったんだよ」
「あんたは遊んでばっかり。バカみたいに何もちゃんとできないんだから」
「なに、バカだって?」
かっとなった左手はぐっと拳を握りました。右手も負けじと拳を握りました。ムードはどんどん険悪になり、そして…。

ⓒ 한지원, 사계절
つかみ合いの喧嘩のすえに、怪我をしてしまったのは右手のほうでした。
周りの人たちは口々に言いました。
「よりによって右手を怪我しちゃったなんて災難ね」「左手だったらまだしもね」
そんな言葉を聞いても、左手は黙っていました。そして一生懸命はたらきました。お箸を使ってみたり、鉛筆を握ったりするのですが、右手のように上手にできません。

ⓒ 한지원, 사계절
あるとき、一匹の蚊が 左手にとまりました。チクッ、ぷくり。かゆい!
でもどうしても届きません。ひとりでもがいている左手に、右手がそっと近づき、ガリガリ掻いてくれました。
プウウウン…とまた蚊が近寄ってきます。左手と右手は同時に向き合って…
「パチン!」
ふたつの手がしっかり合わさりました。

ⓒ 한지원, 사계절
「ありがとう」
左手が先に声をかけました。
今度は右手がこたえる番です。大事な、ともだちの左手へ。


右手と左手が喧嘩をして仲直りする、というユニークなお話でした。
これを読んで、なんだかとても共感するものがありました。自分が頑張りすぎているとき、すぐ隣りの人が楽をしているように思えて悔しくなったりすることがあります。でもみんなそれぞれの場所でちゃんと役割を果たしているんですよね。
ちなみに、左利きの方にとっては、右利き優先になっている社会ではなにかと不便なことが多いと聞いたことがあります。左利きさんの手には、また別の物語がありそうです。
著者であるハン・ジウォンさんの絵は、シンプルな線と限定された色のみで、右手と左手のやりとりを表情豊かに描いています。画集としてもとても優れた一冊です。

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