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絵本「夏,(コンマ)」

#ソウル・暮らしのおと l 2025-07-11

金曜ステーション

ⓒ 글로연
この時期にぴったりな絵本です。タイトルは「夏(여름)」のあとに「コンマ(,)」がついています。この点は日本語では「読点」ですが、韓国語では「쉼표(シュィムピョ)」といいます。「休む符号」という意味のここにも、何か意味が隠されているようです。
では、さっそく本のページを開いてみましょう。
*****
桃の花が散ったあと、やってきた夏。

ⓒ 글로연
夏ってのは…
おんぶした赤ちゃんみたいだよね/垂れさがったお腹のぜい肉じゃない?/ずるずる引っぱっていく砂袋だよ/昼寝を誘う座布団ともいえる/ふわふわ揺れるシャボン玉/いや、とろとろのゼリーだよ
べたべたした糊かな/水をたっぷり吸った湿気取り?/ぐるぐる絡みつく水ヘビ!/ちくちく刺すハリネズミの針かも/あつあつの湯たんぽかな

ⓒ 글로연
とにかく、夏は、あつい。
蒸し蒸しする。重い足取り、滴り落ちる汗、そして、いっそう重たくなる夏。
いつまでこんなに暑いんだか。
時間よ、早く早く過ぎてくれ。
明日もこんな調子かな。
もう、いいかげんに…!

ⓒ 글로연
閉ざされた思考の中で、記憶もぼやけてくる頃、
ようやく、夏の話が聞こえてきます。
夏がこんなに暑いのは、ちょっと立ち止まるため。
夏の日差しが強いのは、そっと目を閉じるため。
夏の木々が生い茂るのは、木陰で休むためなんだよ、と。
浜辺で全身を染めた夏の色と、
夕立ちが空と大地を結んだ夏の線で、
一つまた一つと、思い出した記憶を描いてみよう。
どんどん高まる夏。
そして桃の実は、まるく、みずみずしく熟していく。
夏は、あまい!
*****
こんな内容のお話でした。

絵本のイラストは水彩タッチの色がとてもきれいで、特に赤い色の使い方がとても印象的。冒頭の部分で夏は、重くてべたべたした赤い何かにいろいろと形を変えて人々にまとわりつきます。人々のいらだちが高まるにつれて、ページはめらめらと燃えるような赤い色に覆われていきます。ところが、心の窓をふと開けたところで、発想の転換が生まれます。
「ちょっと立ち止まっては? というために、夏は暑いのですよ」と。

私たちはどうしても夏に打ち勝とうとしてしまいます。汗だくになって仕事して、クーラーのガンガンに効いた室内に逃げ込んで、また仕事して。そうしなければ暮らしていけない現代社会ではありますよね。でももしかしたらこの猛暑は、人々にちょっと立ち止まりなさいよと呼びかけているのかもしれません。少なくとも、ふだんよりもかなりスローダウンすることが、この夏は切実に必要なのかもしれませんね。そんなことを気づかせてくれる一冊でした。

作者のイ・ソヨンさんは、2014年にイタリア・ボローニャ国際絵本原画展で入選したイラストレーターです。

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