ⓒ KBS WORLD Radio先日、小さな旅に出かけてきました。京畿道北部を走るローカル鉄道「郊外線(キョウェソン)」に乗ってきたのです。そこで今日は、「ナビのガタゴト列車の旅」として、郊外線の歴史と乗車体験をお話します。
京畿道の大谷(テゴク)駅と議政府(ウィジョンブ)駅をつなぐ郊外線。高陽市、陽州市、議政府市を通る、長さ32キロの鉄道です。じつは古い歴史をもつ路線なんです。
郊外線の最初の着工は1944年。当時は貨物の迂回路線として工事が始まりましたが、植民地解放を迎え工事は中断。その後、韓国戦争などを経て、1963年に「ソウル郊外線」という名前でようやく開通を迎えました。ソウルを出発して高陽市や議政府市を通ってまたソウルに戻ってくる巡回路線でした。
当時、郊外線の通る北部エリアは、ソウルから気軽に足を伸ばせる観光地として美しい渓谷や登山コース、遊園地などがあり、家族連れの旅行や大学生の合宿などで賑わっていたそうです。ところが1990年代以降、首都圏の道路や交通が発達して、郊外線は衰退していきます。起死回生のために、いっときは中国から導入した蒸気機関車の観光列車が走っていたこともあったとか。しかし結局、2004年に郊外線の列車はすべて運行中止となりました。
ただ、ソウルを中心に地下鉄が増えても、京畿道北部をつなぐ路線がなくなってしまったため、周辺地域から再開の希望はずっとあがっていました。そして2021年、京畿道と郊外線の通る三つの市、鉄道会社が業務契約をかわし、2025年に満を持しての再開通となったのです。
現在、停車駅は6駅。始発駅から終点駅まで約50分です。一日10往復、20本が運行されています。切符はどの区間も2600ウォン。そして乗り降り自由な一日フリーパスは4000ウォンで買えます。鉄道ファンの乗車を見込んでのようですね。
さて、私は大谷駅から乗車しました。空が見渡せる簡素なホームで待っていると、黄色と茶色のツートンカラーの列車が重々しく滑り込んできます。ディーゼル機関車が牽引するムグンファ号で、5両編成。見た目はすごくレトロですが、2両の客車はとてもきれいで快適でした。
駅を抜けるとすぐに、一面緑に覆われた畑や、軒の低い昔風の家が連なる風景が広がります。なんだか風景が近いな、と感じられたのは、いまでは珍しい単線の区間が多いためかもしれません。スピードもゆっくり、ガタゴトと進みます。途中、踏切を通るとき、笑顔で手を振ってくれる町の人々を見かけました。それくらい、韓国の首都圏では地面の線路を通る列車がレアなんです。
ⓒ KBS WORLD Radio私が途中下車した駅の周辺を紹介しましょう。一つ目は、松湫(ソンチュ)駅です。駅から10分ほど歩くと、 松湫渓谷があります。涼しそうな河原は、この日も子連れの訪問客でいっぱいでした。この渓谷のすぐそばにある「ヘッセの庭園」は、レストランやカフェ、ギャラリーのある複合空間です。ゆったりと庭園を見渡せるレストランでは、グルメガイドでお墨付きの美味しい洋食を堪能しました。
もうひとつの駅は、日迎(イリョン)駅です。じつはこの駅舎、BTSの「Spring Day」のミュージックビデオの撮影場所として、知る人ぞ知る聖地なんです。また、映画「猟奇的な彼女」のワンシーンにも登場します。そのためこの駅は、ノスタルジックな風景を活かした形で改築されています。またこの駅は上りと下りの列車が行き違う交換駅で10分停車する時間帯があるので、乗客はしばし降りて写真を撮ったりしながら風景を楽しんでいました。
ⓒ KBS WORLD Radio往復2時間足らずの小さな列車の旅でしたが、私はかなり満足して楽しめました。ソウルからちょっと足を伸ばしたい旅行者の方がたにも、ぜひおすすめしたいスポットです。