韓国の教育部は、歴史教科書を現在の検定制から国定制に転換することを検討していて、論議を呼んでいます。
現在、歴史教科書は、出版社が編集、発行した教科書のうち、教育部の検定を経た教科書をそれぞれの学校が採用して使用しています。
国定教科書は、教科書の編集、発行などを政府が管掌し、すべての学校で政府が一律に発行、配布する教科書を使用する制度です。
検定制では多様な教科書の中からそれぞれの学校が教科書を選択しますが、国定教科書では発行する教科書は1種類ですので、学校に選択権はなく、すべての学校が同じ教科書を使用することになります。
韓国では1974年に当時の朴正煕政権が導入して以降、長らく国定の歴史教科書が使われてきました。しかし、歴史学会や国民から批判を受けて、リベラル系の盧武鉉政権が2007年に廃止を決定。その後は検定制度が導入され、複数の民間企業が教科書を作成して学校側が選ぶ仕組みに変更、今に至っています。
歴史教科書を国定教科書へ転換することについて論議が表面化したのは去年2月です。
教育部は大統領への業務報告で、公論化を経て歴史教科書の国定化を検討するとしました。
大統領府青瓦台は国定化への転換方針を固めたのではないかとする見方もありますが、大統領府青瓦台は教育部で決めることだとして慎重な姿勢を保っています。
教育部は、現行の検定制を強化するか、あるいは国定教科書への転換を進めるか、二つの選択肢を置いて検討を進めたいとしています。
この問題については賛否両論があり、論議が続いています。
教育部に対する国会の国政監査では、この問題をめぐって与野党が対立しました。
与党は、現行の歴史教科書の記述内容は一方に偏った部分があり、客観的で普遍的な内容にするためにも、歴史教科書については国定教科書への転換が必要だとしています。
また、しっかりした国家観を育てるためにも統一した国定教科書が必要だと主張しています。
一方、野党は、国定教科書はヒトラー政権下のナチス・ドイツや軍国主義下の日本で実施した制度で、独裁を美化した教科書の使用を承認した教育部が一方的に編集、発行した教科書は信頼できないとして反対しています。
国定教科書に転換すれば、政権に有利な内容を中心に記述するなど、内容が偏向する恐れがあり、多様な歴史観による多様な教科書が必要だと主張しています。
こうした中、教育部は、歴史教科書については10月中にも別途教科用図書に関する告示をするとしています。
つまり、歴史教科書について、10月中にも国定教科書へ転換するかどうかを決定するということです。
この問題については、保守陣営と革新陣営が厳しく対立していて、今後とも論議はさらに加熱しそうです。