朴槿恵大統領の親友による国政介入事件に関連し、「前官礼遇」の慣習に注目が集まっています。
「前官礼遇」はもともと「高い官職にいた人物に対して、退官後も同じような待遇を与えること」という意味ですが、韓国では主に裁判官や検事を辞めて転身した弁護士に対して、なるべく裁判で勝たせるようにする悪習を指します。これは、「有銭無罪 無銭有罪(罪を犯しても富裕層は無罪になり、貧困層は有罪になる)」と言われる社会的雰囲気にもつながっています。ろうあ者福祉施設で起こった性的虐待事件を扱った映画「トガニ 幼き瞳の告発」でも取り上げられ、公開当時も大きく問題視されました。それが、国政介入事件で起訴された被告たちも「前官礼遇」を期待してか、こぞって裁判官や検事出身の弁護士を選任していることで、非難されています。国政介入事件の被疑者のうち、崔順実氏や禹柄宇氏(前大統領府民情首席秘書官)、金淇春氏(前大統領府秘書室長)などインターネットやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などで話題性の高い方から上位10人が選任した弁護士を見たところ、同10人の弁護士計76人中、裁判官や検事の前歴を持つ弁護士は32人(42%)にのぼり、これらのキャリアのない弁護士だけを選任した被疑者は崔順実氏のめいのチャン・シホ氏しかいませんでした。
韓国では前官礼遇の慣習があるため、刑事事件においても、国選弁護士に任せず裁判官や検事出身の弁護士に依頼する傾向があります。このため、日本は刑事事件において国選弁護士が弁護を引き受ける割合が85.7%(2015年、日本弁護士連合会)であるのに対し、韓国では38.2%の被告人のみが国選弁護士に弁護してもらうといった現状になっています。日本とのこうした差異が生まれた一因として、早稲田大学法学学術院の石田京子准教授は「日本はキャリアシステムをとっていることが挙げられる」と指摘しています。日本の場合、裁判官、検事それぞれが、一度その道を歩み始めると、定年によって弁護士に転職するまでは同じ職でキャリアを積む傾向があるということです。
このように悪習がたびたび問題視されているものの、これを防ごうという動きも出てきています。ソウル中央地方検察庁は15年から、刑事事件において裁判部と縁故関係のある弁護士が選任されたら裁判部を再編しており、実施年には61件の事件において再編が行われました。しかし、これは限定的な処置であり、法曹界全体の認識を変えるには至っていません。「前官礼遇」「有銭無罪 無銭有罪」が「昔の言葉」になる日までにはさらなる民衆の力が必要となるでしょう。