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文化

旅客船沈没事故をきっかけに韓国に広がっている家族愛シンドローム

2014-06-03

2009年の初演以来、全国30あまりの都市で公演され、延べ25万人の観客を動員している演劇「トンチミ」は、 子どもの成功を生涯の願いとして生きていこうとする親からの献身的な愛や家族の意味について問いかけている作品です。この「トンチミ」が、4月16日に発生した旅客船、セウォル号の沈没事故をきっかけに再び注目されています。



一緒にいて当然と思っていた家族。それだけに、失ったときの悲しみは例えようがありません。韓国の人々を怒りと悲しみの淵に追いやったセウォル号の惨事は、忙しさにまぎれて、つい後回しになりがちだった家族について考えるきっかけになったのです。

家族に大きな意味と価値をおく現象「家族愛シンドローム」が一番先に現れたのは消費パターンの変化でした。家庭の月といわれる5月、両親に贈るカーネーションをはじめ、家族へのプレゼントを購入する割合が高まったほか、レストランなどでは家族連れの客が前年に比べ3割も増えています。また、家族連れの旅行も需要が高まっているそうです。セウォル号事故の影響で、全体的な消費は冷え込んでいますが、家族の安全を確保し、家族への想いを伝えるための消費だけは大きな伸びを示しているのです。

家族をモチーフにした展示会や公演への関心も高まっています。ソウル図書館では「家族に送る3行のラブレター」という企画展示会が開かれています。「ごめんね、ありがとう、愛してる」など、日頃は口に出せなかった家族へのメッセージが感動を与えています。演劇「トンチミ」が再び注目されているのもセウォル号沈没事故の影響といえるでしょう。



演劇「トンチミ」は現役から引退し、事故の後遺症で身体が不自由な夫、キム・マンボクと、夫を看護しながら生きている妻、チョン・イブン、そして3人の子の物語です。母親として、妻として、いつも家族優先だったチョン・イブンは、ある日、深刻な骨粗しょう症と癌と診断されます。自分の病気を誰にも知らせず、痛み止めだけで耐えていた彼女が倒れてしまいます。意識を取り戻せないまま、植物状態と診断されたチョン・イブン。人工呼吸器など、機械につながれた妻の姿を見ながら、キム・マンボクは、これ以上妻を苦しめたくないと、延命治療をあきらめます。献身的だった妻を亡くしたキム・マンボクは食べることも寝ることもできません。母親の死で家族の意味を悟った息子と娘は父親を気遣います。しかし、数日後、キム・マンボクもまた息を引き取ってしまうのです。演劇「トンチミ」は、2004年に妻を亡くしたあと、その6日後に後を追うように息を引き取った詩人、キム・サンオクの実話をモチーフにしています。

そばにいてくれるだけで力になる存在、家族。セウォル号沈没事故という悲劇を目の当たりにし、韓国の人々は、忙しさや照れくささから、これまであまり表現できなかった家族への愛や思いやりをいろんな形で示すことの大切さに気づいたのです。家族と送る平凡な毎日がいかに大切なものか、改めて感じているのです。

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