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文化

映画『ソウルの春』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2023-12-07

玄海灘に立つ虹


〇本日ご紹介する映画は、キム・ソンス監督の『ソウルの春』です。先月22日に公開されたんですが、すごい勢いで観客数が伸びていて、早くも500万人を超えています。1979年の実際にあった出来事がモチーフになっているんですが、名前は実在の人物とは少しずつ変えていました。後に大統領となる、全斗煥は、チョン・ドゥグァン、盧泰愚は、ノ・テゴンとなっていて、それぞれファン・ジョンミン、パク・ヘジュンが演じました。チョン・ドゥグァンが悪役でありながら主役なんですが、憎らしいほどファン・ジョンミンが好演してました。対するもう一人の主役は、チョン・ウソン演じる首都警備司令官のイ・テシン、これも実在のモデルがいて、チャン・テワンという人物ですが、私は今回この映画を通して初めてこういう人物がいたということを知りました。この人物に関してはかなり創作部分もあるとは思うんですが、映画の中では、味方がどんどん減っていっても最後まで戦い抜くヒーローでした。俳優たちの熱い演技だけでも、相当見ごたえがありました。

〇モチーフとなった事件というのは、韓国では12.12と呼ばれますが、1979年12月12日に起きた事件で、全斗煥が中心となって起こしたクーデターです。クーデターの前に、映画『南山の部長たち』で描かれた、朴正煕大統領暗殺事件が、1979年10月26日に起こり、その少し後の12月12日にクーデターが起こりました。軍事独裁が終わったと思ったら、また始まるんですね。全斗煥といえば、1980年5月の光州事件の方で知っているという人も多いかもしれません。光州の民主化運動を暴力的に鎮圧した中心人物とされます。全斗煥は2021年に亡くなりましたけども、亡くなったから映画ができたのかな、という気もします。
ソウルの春、というのは、朴正煕大統領暗殺後、1980年5月に非常戒厳令が拡大されるまでの、民主化ムードが漂った数カ月を指す言葉ですが、このクーデターによって春の終わりが始まった、ということだと思います。クーデターとしては成功した、逆に国民の側からすれば、国を乗っ取られた、と言えるかもしれません。


〇私はこの映画を見るまでは、当時の崔圭夏大統領が全斗煥に屈して、全斗煥が実権を握った事件というふうに思っていて、その過程がどんなものだったのかは知らず、ここからは役名で映画の中の話として、お話します。ざっくり言うと、チョン・ドグァン対イ・テシンの戦いで、複雑な事件を分かりやすい構図に見せたのが、興行的に成功した理由だと思います。国を乗っ取ろうとするチョン・ドゥグァンを命がけで阻止しようとする、イ・テシン。双方が兵力を動員してぶつかり合うのですが、これも分かりやすいのは、チョン・ドゥグァン側が漢江を渡って北に攻め入ろうとするのを、イ・テシン側は漢江を渡らせまいと、橋を封鎖します。武力衝突は互いに避けようという交渉をチョン・ドゥグァン側が破って漢江を渡ったことで、形勢が逆転する、というふうに描かれました。


〇イ・テシンのモデルとなった、チャン・テワンという人物ですが、映画を見たらみんな、この人について調べたくなると思います。実際にも、クーデターに最後まで対抗して戦った軍人だそうで、結局、クーデターは成功し、チャン・テワンは逮捕されました。チャン・テワン側が勝っていたら、韓国の現代史はかなり違っていたんでしょうね。ただ、映画のクライマックスとも言える、光化門前でチョン・ドゥグァンとイ・テシンが対峙する一触即発のシーンは、これは創作部分だったようです。名前を変えているので、歴史歪曲という指摘は出ないと思いますが、映画を見てから、あの部分は実話で、あの部分は作った部分なのか、というのを改めて記事やドキュメンタリーなどで確認するのもおもしろいです。韓国は現代史を描いた映画がよく作られますが、私もそのたびに勉強させてもらっています。日本では日本の現代史をみんながよく知っているわけではないと思うんですが、韓国ではこうして映画として出てきて、ヒットするので、そのたびに話題になって、みんなで現代史を共有している感じがします。

〇今年を振り返ってみると、「韓国映画の不振」が深刻で、観客数のトップ10には『犯罪都市3』『密輸』『コンクリート・ユートピア』の3本だけという寂しい状況だったのですが、この『ソウルの春』がぐんぐん伸びてきて、この勢いで2位か3位にはランクインすると思いますが、年末に盛り返した感があるのは嬉しいです。これだけヒットしているので、日本でも公開されると思いますが、ぜひ、これは映画館のスクリーンと音響で迫力を味わってほしいと思います。

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