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文化

『2000年生まれが来る』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2024-01-18

玄海灘に立つ虹


〇本日ご紹介する本は、イム・ホンテクの『2000年生まれが来る(2000년생이 온다)』、昨年11月末に出たばかりの本です。2024年は、2000年生まれが24歳になる年、大学を卒業して社会に出てくる、あるいはすでに出ている年齢ですよね。1982年生まれの私は、ええ、もう、2000年生まれが…という感じなのですが、生まれながらにしてITが普及していて、インターネットやスマートフォンがないのを経験したことのない世代です。インターネットの登場によって社会も大きく変わり、考え方も私たちの世代とは違って当然だと思います。そんな若い人たちの考えに触れてみたくて、読んでみました。

〇まず著者のイム・ホンテクさんは私と同じ、1982年生まれの方で、『90年生まれが来る』という本も出しています。若者向けの講演活動もやっていて、ある講演で「私が一番好きなこと」について尋ねたところ、2000年生まれの大学生が「私が一番好きなことは‘何もしないこと’です」と答え、衝撃を受けたそうです。あくせく働きたくない、という意味でしょうか…。
会社勤めが当たり前ではなくなっている、というのが、一つの特徴なのかなと思いました。私の知り合いの新聞記者も、大学卒業を前にした息子が「株で食べていくから、就職しない」と言い出して驚いた、と話していました。実際、株でけっこうな収入を得ていて、定年前の新聞記者のお父さんより稼いでいるそうです。本人は就職する必要を感じないわけですね。学生時代から株をやっていて、それなりに稼いでいるというのも、私たちの世代ではほとんどなかったことだと思います。

ⓒ Getty Images Bank
〇すでに社会人になった2000年生まれの人のエピソードとしては、会食に参加しない、というのがありました。これはよく聞く話ですよね。以前は会食に特に若手が参加しないというのは考えにくかったのが、最近は若手で参加しない人が増えている、それについて上司や先輩がとやかく言えない雰囲気になってきました。ただ、私がびっくりしたのは、「会食に参加できなかった分、会食費をください」と言った、ということです。部署ごとに人数に応じて会食費が会社から出ているようで、自分は飲み食いしなかった分、そのお金をくださいということです。ええ、それはないんじゃ…と言いたくなりますが、もしかすると合理的なのかもしれません。もちろん2000年生まれがみんなそう言うわけではないけど、これまでとは違う発想をするという事例でした。

〇私も新聞記者だったのでまさにそうでしたが、就職したら会社の所有物になったかのように休みも何も関係なく四六時中自分の担当で何かあれば取材して書くのが当たり前という生活でした。韓国でそこに大きな変化をもたらしたのが、2018年、文在寅政権下で進められた「週52時間労働」です。マックスで52時間、ということですが、この法改正によって「当たり前のように残業する」という悪習がなくなってきたようです。残業を減らす、あるいは残業したら正当な手当をもらうというのが根付くようになった。その大きな変化の後に就職する2000年代生まれは、働き方に関する考え方も自然と変わってきますよね。さっきの会食の話にも通じると思いますが、勤務時間が終わったら個人の時間という認識なのだと思います。

ⓒ Getty Images Bank
〇著者いわく、2000年代生まれの若者の特徴として、MBTIを尋ねる傾向があって、MBTIというのは、性格診断のようなもので、質問に答えて4つのアルファベットの組み合わせの16通りのタイプに分類するものです。コロナ禍で韓国ですごくはやったんですよね。若者に限らず私の、あるいは私より上の世代でも聞くことはあるのですが、これが、2000年代生まれの場合は、「相手を知る近道」として使っているのが特徴だそうです。初対面でMBTIを聞いて、この人はこういう性格だからこういう付き合い方をしよう、というふうに。ちなみに私は何回聞かれても覚えられず、いつもキャプチャーしたのを見るのですが、INFPだそうです。

〇結局、読んでいて、「仕事とは?」という世代に関係なく普遍的な問いにたどり着くのですが、お金も大事だけど、お金だけじゃない。会食を強要はできないけども、行って先輩や上司、あるいは取引先から人生の四方山話を聞いたり、あるいは悩みを打ち明けたり、そういうのはなかなか職場にいる時間帯にはできないことだとも思います。仕事を通じて人生が豊かになるという面はあると思うのですが、‘お金を稼ぐ手段’というだけになってしまうと、なんとも世知辛いなという気がします。

〇もちろん、この世代はこう、と言い切れるものではないのですが、生まれ育った時代背景にある程度影響を受けるものなので、自分とは違う世代がどういう理由で違う考え方をするのかというヒントを得ることはできるんじゃないかなと思います。出たばかりの本なのでまだ日本語版はないのですが、韓国語で読める方、最近の韓国の若者を知るにはもってこいの一冊だと思うので、ぜひ読んでみてください。

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