日本で去年、大手広告代理店「電通」の新入社員高橋まつりさんが過労自殺するという事件が起きました。韓国で大学生に1番人気のある企業、CJ E&Mに去年1月に入社した新人PDが自殺しました。その背景を探ってみました。
ソウル大学を卒業し、大学時代から「人の心を慰めるドラマを作りたい」と言っていたイ・ハンピッさんは、その希望通りドラマの製作現場に新人PDとして配属になりました。しかしドラマ製作の現場は彼が思い描いていたものとは大きく違っていました。彼の遺書にはこんな言葉が書かれていました。
「撮影現場でスタッフが冗談半分で口にする労働搾取という単語が胸に突き刺さります。もちろん私も労働者に過ぎませんが、少なくとも彼らの前では労働者をしぼり取る管理者以上でも以下でもないからです」
そしてこんな言葉もありました。
「一日に20時間を越える労働をさせ、2、3時間休ませた後、再び現場に労働者を呼び出し自分たちが求める物を作り出すために、すでに疲れきっている労働者を督促し、背中を押し出す。僕が一番軽蔑していた生き方だったのでこれ以上続けていくことが出来なくなりました」
27才の若者が自殺した理由です。イ・ハンピッさんは大学時代から社会から疎外された貧しい人々のためになろうと努力していました。それがソウル大学という恵まれた環境で勉強した者が社会に還元すべき責任だと考えていたからです。
しかしあこがれていたドラマ製作の現場は労働搾取とセクシャルハラスメント、言葉の暴力がはびこる世界でした。イさんがスタッフとして参加していたドラマの撮影が進行していた55日間、彼が休めたのはわずか2日でした。最後の方では1日に4,5時間眠ることもできませんでした。さらにその途中に一方的に会社側から契約を解消されたスタッフに対して、支給された契約金の一部を回収するという役目までさせられていました。なぜなら彼は正規職で入社した社員だったからです。
イさんの自殺後、ドラマの製作現場からはその過酷な状況を訴える声が数多くあがっています。
「現場で倒れなければ、過度な業務を認めてもらえない無言の暴力がある」
「夢を達成しようという若者たちが低い給与、非人間的な待遇、極限の労働時間に耐えて働き、ようやくドラマ1本が完成する」
最近、映画の製作現場ではスタッフを雇用するときには標準契約書を書く習慣が定着しています。ドラマ製作の放送の現場にも標準契約書はあります。しかし未だに標準契約書を使わずに、口約束で、あるいは内部の独自の契約書で働いている人が大部分だといいます。
「この現場はもともとそういうところ」というのが、現場に長くいるスタッフの言葉です。
この言葉、日本でも聞かれましたよね。高橋まつりさんが働いていた広告業界も同じように激務が課せられていました。そしてそれが現場の慣習だと言われていました。周りから見ると一番成功したように見える、夢を掴んだように見える若者の死です。親の立場から本当にやるせない気持ちで一杯です。