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ピープル

韓紙職人、チャン・ソンウ

2016-08-02

ソウルの近郊、京畿道(キョンギド)加平郡(カピョングン)にある伝統韓紙の工房、チャンジバン。チャンジバンは「チャン一家が紙を作る工房」という意味を持っています。現在、韓紙職人、チャン・ソンウさんが経営しているチャンジバンでは伝統的な方法で韓国の紙、韓紙を制作しています。

チャン・ソンウさんは、曾祖父の代から祖父、そして重要無形文化財に指定された父親の後を継いだ4代目の韓紙職人です。チャン・ソンウさんは技術的にも秀でていますが、韓紙の材料となる楮(こうぞ)や粘りを出すために使うトロロアオイを直接育てるなど、原料から昔ながらの製造法を守ろうと努力しています。



韓紙職人の家に生まれたチャン・ソンウさんは子どもの頃から父親の作業風景を見守り、手伝いながら成長しました。そして、1990年、兵役を終えたチャン・ソンウさんは父親を手伝うつもりで韓紙を作りはじめました。伝統的な韓紙を作るためには、長い時間と経験を通じて原料の配合や紙を漉く微妙な感覚をマスターしていかなければなりません。しかし、子どもの頃から父親の作業を見守り、手伝っていたチャン・ソンウさんは知らず知らず韓紙の作り方をマスターしていたのか、彼が初めて作った韓紙はその日のうちに売れてしまいました。

父親を手伝うために紙を漉きはじめたチャン・ソンウさんが本格的に家業を継ぐ決心をしたのは、韓紙を注文するために工房を訪れたある日本人との出会いがきっかけでした。父親が漉いた紙を見て、本物の紙を作る職人に出会えたと言いながら父に向かって深くお辞儀をする日本人アーティストの姿に、伝統的な韓紙を守っていくことが大きな意味があり、人生をかけるくらいの値打ちがあると悟り、家業を継ぐ決心をしたのです。本格的に韓紙職人になろうと決めたチャン・ソンウさんは、韓紙だけではなく、日本の紙、和紙にも関心を持ち、学んでいきました。韓紙や和紙について研究しながらチャン・ソンウさんは、紙を漉く時に一番大事なのは、技術よりも心の平穏を保つことだと悟りました。

韓紙の材料となるのは楮という木の皮です。楮の繊維は長く丈夫なので、質の良い紙を作ることができるのです。チャン・ソンウさんが直接、楮を育てているのは韓国の楮に比べ、輸入した楮の繊維は短く、弱いからです。韓紙を作る時、チャン・ソンウさんは10月から翌年の2月にかけて刈り取った楮を使っています。丈夫な韓紙を作るためのノウハウです。この楮を6時間から7時間ほどかけて蒸し、水にさらして皮を剥ぎ取ります。黒い外皮を剥ぎ取った後、内皮は灰を混ぜた水に入れじっくりと時間をかけて煮ます。柔らかくなった楮の内皮、繊維のフシや汚れを一つ一つ手で取り除いた後、綿(わた)のようになるまで叩きほぐし、おおきな桶に移します。ここにトロロアオイなどから取った粘り気のあるトロロを加え、紙を漉く作業に取り掛かります。紙を漉くすけたを前後に動かしながら、紙の厚さを合わせていきます。一般的な韓紙の厚さは0.05ミリ。薄く漉いた紙は一枚ずつ、熱した紙床(しと)にのせて乾燥させ、艶と弾力性を出すために棒で叩きます。一枚の韓紙を作るためには、このように20あまりの作業を経なければなりません。しかし、美しい艶のある韓紙を見ると、チャン・ソンウさんは苦労を忘れ、やりがいを感じるのです。

統一新羅時代に書かれた仏教の経典や朝鮮時代の書物や記録など、古文書が元来の色を失わず現在まで伝わってきたのは、韓紙の力といえます。そんな韓紙の価値は海外にも知られるようになりました。最近、韓紙はローマ法王ヨハネ23世博物館にある地球儀やバチカン博物館の地図などイタリアの文化財の修復作業にも用いられました。また、今年11月にはイタリアに韓紙学部が開設される予定です。

チャン・ソンウさんは韓国の紙、韓紙の伝統を守るだけではなく、チャンジバンを継ぐ後継者を育てるため、そして、韓紙の世界文化遺産登録を目指して今日も黙々と紙を漉いています。

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