東京電力福島第1原子力発電所の汚染処理水の海洋放出をめぐり、韓国の政府系研究機関が、韓国の海域への影響を試算した結果を発表しました。
それによりますと、放射性物質トリチウムの韓国海域への流入は、放出開始の4~5年後になる見通しで、流入するトリチウムの濃度も検出が難しいレベルにとどまるということです。
一方、国内の研究者や市民団体からは、今回のシミュレーションの検証内容や方法について、疑問の声があがっています。
福島第一原発の汚染処理水について、日本政府と東京電力は、トリチウムの濃度を海水で薄めたうえで、ことしの春から夏をめどに、海への放出を始める方針です。
韓国海洋科学技術院と韓国原子力研究院は、日本が放射性物質トリチウムの年間放出量の上限とする22兆ベクレルを10年間放出した場合を想定して、シミュレーションを行いました。
シミュレーションでは、福島沖から放出される汚染処理水に含まれたトリチウムは、黒潮によってほとんどが東に流れ、アメリカ西海岸まで移動しながら北太平洋全体に拡散します。韓国方面へは、海流の流れが弱いため、ゆっくり進み、放出が始まってから4~5年後に済州(チェジュ)の海域に流入すると予測しました。
トリチウムの濃度は、放出開始から10年後でも、海水1トンあたりおよそ0.001ベクレル、現在の平均濃度を17万分の1程度上昇させる程度にとどまり、検出が難しいほど低いということです。
ただ、今回のシミュレーションでは、複数ある放射性物質のうち、トリチウムだけを対象にしています。
日本政府は、福島の汚染処理水からトリチウム以外の放射性物質は除去できると主張していますが、東京電力が2020年12月に発表した資料によりますと、福島の汚染処理水から除去設備を用いて放射性物質を8年間除去してもセシウムやストロンチウムなどは基準値以上に検出されていたということです。
また、国内の研究陣は、今回のシミュレーションで算定されたトリチウムの濃度が微々たる程度にとどまったとしても、人体に入った際の影響や海洋生態系の実際の変化などは考慮されていないと指摘しています。
そのため、韓国の市民団体からは、今回のシミュレーションについて、「日本政府の主張を鵜吞みにしたものだ」として、さらに詳細な検証を求める声があがっています。
福島第一原発の汚染処理水の海洋放出について、韓国政府傘下の研究機関がシミュレーション結果を発表したのは初めてです。