おととし、ソウルの繁華街、梨泰院(イテウォン)で起きた転倒事故の真相究明に向け、特別調査委員会を設置するための法案、通称「梨泰院惨事特別法」に対して、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は30日、拒否権を行使しました。遺族らは反発しています。
韓国では、国会で可決された法案は、すべて、政府に回送され、閣議で審議されたあと、大統領に送付されます。大統領は法案を受け取ってから15日以内に、公布するか、拒否権を行使して国会にあらためて採決を要求しなければなりません。
拒否権の行使は、まず閣議で、国会に対して再採決を要求する案を決定し、大統領がそれに署名する形で行われます。
「梨泰院特別法」の法案は、今月9日に「共に民主党」など野党の主導で国会を通過し、19日に政府に送付されていて、それから11日後の拒否権の行使となりました。
尹大統領が拒否権を行使したのは今回で5回目で、拒否した法案の数は9件となり、1987年に現在の憲法が制定されて以降、歴代の大統領による拒否権行使の記録をさらに更新しました。
尹大統領の次にもっとも多く拒否権を行使したのは、憲法制定の翌年に就任した盧泰愚(ノ・テウ)元大統領で、合わせて7件を差し戻しています。
尹政権は、国会での再採決の要求案と合わせて、梨泰院での事故の被害者と遺族への支援を拡大することや、追悼のための場所を建設するなどの総合支援策も発表しました。
しかし、遺族たちは反発しています。
遺族会などは30日の午後、記者懇談会を開き、「大統領は拒否権を無制限に行使するべきではない」と述べたうえで、「遺族は真相究明を望でいるのに、政府は賠償を提案することで遺族を侮辱した」と批判しました。