脱北した漁船員の2人を強制的に送り返したとして、職権乱用罪などに問われた文在寅(ムン・ジェイン)前政権の高官に対し、裁判所は「宣告猶予」付きの懲役10か月の判決を言い渡しました。
この漁船員2人は2019年11月、漁船に乗って南下し、韓半島東の海、東海(トンへ)上の軍事境界線にあたるNLL=北方限界線付近で韓国軍にだ捕されました。当時の文政権の高官らは、2人が亡命の意向を示したにもかかわらず、同僚の船員16人を殺害した疑いがあり、非政治的な重い犯罪を起こしたため保護対象ではないとして5日後に北韓に強制送還していました。しかし、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足後、当時の送還の経緯をめぐり論議が持ち上がり、検察が起訴していました。
ソウル中央地方裁判所は19日、文前政権時代に北韓の漁船員2人を強制送還したとして職権乱用・権利行使の妨害などの罪に問われた鄭義溶(チョン・ウィヨン)元国家安保室長と徐薫(ソ・フン)元国家情報院院長に「宣告猶予」付きの懲役10か月の判決を言い渡しました。
裁判所は、「自白だけにもとづいて、わずか2日後に強制送還を決め、だ捕から5日で送還した。慎重な法的検討を行わなかったのは法律に反している」と説明しました。
ただ、「南北が分断して以降、適用する法的指針が用意されておらず、制度が改善されていない状態で、その業務を担当した人だけを処罰するのが正しいのかという疑問がある」として、「宣告猶予」を言い渡しました。
宣告猶予とは、裁判所が被告の有罪を認定した上で、刑の宣告を先送りし、一定期間、別の事件で有罪判決を受けなければ、刑事責任を免除する制度で、有罪判決自体が消滅し、前科にならない点が執行猶予と異なります。
検察は、受け入れがたい判決だとして控訴する方針を明らかにしています。