韓国とアメリカの関税をめぐる交渉は、細部をめぐって意見の隔たりが大きく、当日まで合意が不透明とみられていましたが、29日、妥結しました。
ことし7月に両国が大型投資の原則で合意して以降、およそ3か月間にわたって実務協議が続けられ、慶州(キョンジュ)で開かれているAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議の機会に最終的に署名が行われました。
韓国の対米投資総額は3,500億ドルで、このうち2,000億ドルが金融やインフラを中心とする現金投資、残りの1,500億ドルは造船分野の協力プロジェクト「マスガ(MASGA)」に充てられます。
最大の争点は、韓国の為替市場への負担をどこまで抑えられるかという点でした。
金容範(キム・ヨンボム)大統領室政策室長は、「現金投資は一度にではなく、年間200億ドルを上限として分割して行うことで、為替の不安定化を防いだ」と説明しました。
また「造船分野の投資には船舶金融や保証が含まれ、実際の外貨流出は限定的だ」と述べました。
一方、アメリカ側は自国の製造業再建を目指し、韓国からの投資拡大を条件に関税の見直しを提案しました。
その結果、自動車や部品、医薬品などの関税率を15%に引き下げることで合意しました。
韓国の最大の対米輸出品目である自動車の関税は、これまでの25%から日本やEUと同じ水準に下げられました。
また半導体の関税も台湾とほぼ同じ水準に調整され、韓国企業の競争上の不利がある程度緩和されたとしています。
金政策室長は「今回の合意によって、韓国企業がアメリカの製造業再建プロジェクトに積極的に参加できるようになった」と強調しました。
アメリカ政府は、韓国が推薦する企業を優先的に協力対象とし、許認可や電力・水の供給などの行政手続きを迅速に進める方針です。
一方、農林水産物市場の開放については「コメや牛肉など主要品目の追加開放は徹底的に防いだ」としています。
日本が過去の日米通商交渉で農業分野を慎重に扱ったのと同様に、韓国も国内農業を守る姿勢を鮮明にしました。
今回の交渉は単なる関税引き下げにとどまらず、投資構造の見直しと為替安定の仕組みを含む包括的な合意となりました。
韓国は為替市場の安定と産業協力の拡大、アメリカは製造業の投資誘致という、それぞれの目的を両立させた形です。