北韓に向けたビラの散布を、警察が制止できるようにする法律の改正案が、韓国の国会で可決されました。
国会は14日の本会議で、与党「共に民主党」が主導して警察官職務執行法の改正案を採決し、野党「国民の力」が欠席するなか、在籍議員174人全員の賛成で可決しました。
改正案では、ビラ散布を目的として南北の軍事境界線に近い地域に立ち入る行為などについて、警察が警告を行い、緊急時には現場で直接制止できるようにすることが盛り込まれています。
「北韓向けビラ」は、韓国の脱北者団体などが風船を使って北韓側に送ってきたもので、北韓の体制を批判するメッセージのほか、韓国のドラマや音楽、ニュースなどが含まれていました。
北韓はこれを体制を揺るがす敵対行為だとして強く反発し、過去にはビラに銃撃を行ったこともあるため、南北の境界地域の住民に危険が及ぶおそれが指摘されています。
与党「共に民主党」は、今回の改正案について、住民の生命と安全を守るとともに、軍事的・外交的緊張の高まりを防ぐために必要な措置だとしています。これに対し、野党「国民の力」は、北韓側の要求を事実上反映した内容で、「表現の自由を侵し、憲法にも違反する」として強く反発しています。
これに先立ち、北韓に融和的な姿勢を示していた文在寅(ムン・ジェイン)政権下の2020年にも、軍事境界線付近での対北韓ビラ散布を禁じる法律が制定されましたが、憲法裁判所がおととし9月、「表現の自由を過度に制限する」として違憲と判断し、法律は効力を失っていました。しかし、この「ビラ散布禁止法」とは別に、今回、警察官の職務権限を定めた法律を改正することで、事実上、ビラ散布は不可能になった形です。
韓国統一部の報道官は15日の定例会見で、今回の法改正について、「北韓向けビラの時代は事実上終わった」と述べたうえで、「南北関係の回復と平和共存に向けた一つのきっかけになることを期待する」と話しました。