尹錫悦(ユン・ソンニョル)前政権が、おととし10月に政府レベルで北韓へのビラ散布の再開を決定していたことが、韓国軍内部の調査で公式に確認されました。この決定が、去年12月3日の「非常戒厳」宣言と時期的に重なっているとして、注目が集まっています。
国防部の調査によりますと、北韓へのビラ散布の再開は、おととし10月に開かれた国家安全保障会議(NSC)の常任委員会で決定されました。
この会議では、2018年9月19日に締結された「9・19南北軍事合意」の評価や対応策が議題となりました。また、憲法裁判所が、いわゆる「対北ビラ禁止法」について憲法違反と判断した直後に、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代の2017年7月以降、中止されていた北韓へのビラ散布が再び推進されたということです。
当時の申源湜(シン・ウォンシク)国防部長官は同じ年の11月、韓国軍に対し口頭で作戦再開を指示しました。
国軍心理戦団は、去年2月から11月までに、少なくとも17回、平壌(ピョンヤン)や元山(ウォンサン)など、北韓の主要都市や軍部隊を対象にビラを散布していたとされています。
北韓へのビラ散布は、軍事的反発を招くリスクの高い行動とされてきました。実際に北韓はその後、南側が先にビラを散布したとして、「汚物風船」を大量に飛ばしました。
尹錫悦政権は、こうした一連の状況を根拠に、去年6月、「9・19南北軍事合意」の全面的な効力停止を決定しました。その後、北韓向けの拡声器放送や、軍事境界線周辺での実弾射撃訓練を再開するなど、軍事的圧力を強めました。
作戦の過程では、すべての報告と承認が保安電話を通じて行われ、関連部隊は定期点検のたびに、ビラ散布作戦に関する記録を削除していました。 また、合同参謀本部では、関連文書を残さないよう指示していたことも明らかになりました。
一方、北韓の反発を意図的に誘発しようとした可能性があるとして、いわゆる外患罪にあたるかどうかを調べている特別検察官は、北韓へのビラ散布再開が、安全保障上の危機を作り出そうとしたものだったのかを捜査しています。
特に、この時期が尹前大統領の「非常戒厳」準備が本格化した時期と重なっている点に注目していて、ビラ散布作戦が「非常戒厳」宣言の大義名分を作るための軍事的措置だったのかどうかが、最大の争点となっています。