韓国文化シリーズ第77回の今日は、天然痘を指す「媽媽(ママ)」というテーマで国楽の世界へ、みなさんをご案内いたします。
韓国では、恐ろしいものを指して、「虎患媽媽(ホファンママ)よりも怖い」という表現をすることがあります。虎患媽媽より恐ろしい人だとか、虎患媽媽より恐ろしい飲酒運転、などのスローガンやタイトルとしても使われることがあるんです。虎患媽媽は、4文字の漢字を組み合わせた二つの意味を持つ表現です。まず、虎患は虎に襲われる災いを指します。韓国は山が多いので、山奥の虎が村に下りてくることも少なくなかったようです。そして、虎患媽媽の媽媽は、天然痘を指しています。昔は韓国はもちろん、世界的に最も脅威を与えた病気のひとつが天然痘です。薬もなかったので、当時は世界中の死者の1割がこの病気で亡くなったそうです。神にお告げを行うクッという儀式では、必ず天然痘を退ける順番がありました。また、天然痘をお客様という意味のソンニムとも呼びましたが、このクッという儀式を「ソンニムクッ」とも呼んでいたそうです。それでは、東海岸地域のクッ、「東海岸別神─の中からソンニムクッ」という曲をお送りいたします。
韓国には、憎い者にほど良きことをしてあげる、という意味のことわざがあります。その昔、災いを追い払う方法もこれと似ていたようです。災いをむちゃに退けるのではなく、心を込めてもてなすのです。媽媽という表現は、王様や王妃につける最高の敬称ですが、最も恐ろしい病気の天然痘にも最高の敬称を付けたのです。また、お客様という意味のソンニムとも言いました。これは、心を込めてもてなしますから、召し上がった後は留まらずに去って行ってください、という意味があったんです。また、済州島でも面白い呼び方をしていたようです。マヌラ拝送、これはどういう意味かお分かりですか。現代の韓国語では、マヌラは自分の妻を指して、家内とか女房という意味です。でも昔は、ママという表現のように王族や官吏を指す言葉をマヌラと言ったそうです。拝送とは見送ることを意味するので、早く去って欲しいという意味です。つまり、大切なお客様ではあっても、早く帰って欲しい相手であったのです。今では北韓の行政区域ですが、黄海道(ファンヘド)にも「マングデタククッ」という儀式があります。この中から天然痘の神を指すビョルサンのクッ「ビョルサンコリ」という曲をお聞きください。
天然痘を予防する方法が韓国に伝わったのは朝鮮後期のことです。種痘という予防接種ですが、一部の地域では実施されたものの広くは伝わらなかったようです。薬も存在しない天然痘にかかってしまうと、迷信以外には頼るものがなかったのです。その一方、世界保健機関は1967年から天然痘の撲滅を推進します。そして、ソマリアで発生した最後の患者を終わりに、1977年には天然痘の根絶を宣言します。人類を脅かした病を断ち切ったわけですが、でももうひとつの危険が残っていました。1992年、旧ソ連で天然痘を利用した生物兵器を開発していたことが明らかになったのです。本当に恐ろしい兵器を開発したものです。それでは、最後の曲は、珍島地域のクッからお送りいたします。「珍島シッキムクッの中のソンニムクッ」という曲です。