韓国文化シリーズ第83回の今日は、海の中をもぐる「海女(ヘニョ)」というテーマで国楽の世界へ、みなさんをご案内いたします。
海女(ヘニョ)は特別な装備もなく水中にもぐり、サザエやアワビ、ワカメなどを採取する女性を指します。同じ職業として、日本には海女さんがいます。韓国のヘニョは済州島に多いですが、強い生命力で、厳しい環境でも生業を営んできた、済州島の女性を象徴しています。
みなさんは「スムビソリ」が何かご存知ですか。ソリは音のことですが、ヘニョが海の中から浮かび上がってきて、我慢していた息を吐き出す音をスムビソリと言います。一度もぐると一分から長くは二分までも息を我慢しているそうです。息が切れるまで我慢し水の上に浮かび上がってくると、テワクという浮き輪を抱えて大きく息を吐き出します。この吐き出す音が、口笛にも聞こえるしイルカの鳴き声のようにも聞こえます。浮力を利用した道具、テワクを抱えて息を吐き出すと、気持ちがすっきりして心の中も平和になるそうです。ヘニョの中には実家より海の方が親しみを感じる方もいると言います。悲しいことは海の中で忘れてしまい、海で採取した海産物で生活もできるからです。少し大変ではあっても、酸素ボンベなどは使わないそうです。その都度必要なものだけを満たし、海と共に生きていく知恵であるのです。ここでヘニョの「スムビソリ」という曲をイ・キプムさんの歌でお聞きいただきます。
済州島ではヘニョをユネスコ人類無形遺産に登録するための努力が活発に行われています。ところで、私たちが知っている海女、ヘニョは他の地域には存在しないのでしょうか。海に接していれば、他の地域にも存在しそうな気もします。でも、特殊な装備を付けずに海にもぐる海女、ヘニョは、日本と韓国にしかいないそうです。とても不思議な存在だと思います。実際近くで見たヘニョの動きは、見とれてしまうほどでした。日本語では海女ですが、韓国でも同じ漢字を書いてヘニョと言うんです。昨年、日本では海女さんをテーマにしたドラマが大きくヒットし、その影響もあって海女さんに対する関心が高いようです。固有の文化をドラマを通じて守ろうとする日本の試みが、羨ましいものです。ここで、イ・テメさんとみなさんの歌で、「ヘニョの歌、 해녀노래」という曲をお聞きください。
済州島でヘニョが活動し始めたのが、正確にいつからなのかは知られていません。記録によりますと少なくても高麗時代にはヘニョがいたと推測できます。朝鮮中期までは男性も海の中に入ってアワビやワカメを採取したそうです。でも、やはり女性が多い地域なので、次第に女性の仕事になったのです。女性に経済力があることは、その昔大きな強みであったと思います。その影響なのか、済州島は女性の社会的な地位が他の地域に比べて高い方なんです。最近済州島では海に関する仕事以外でも職場が多くなってきました。海の仕事は大変なので、ヘニョになろうとする若者はほとんどいないようです。現在活動しているヘニョは多くが60代以上の方なんです。済州島の環境や文化、暮らしを守ってきたヘニョの姿を、私たちはいつまで見ることができるのでしょうか。ここで最後の曲は、ヘニョが身の安全と豊かな暮らしを祈るクッという儀式を行うときに歌った済州島の民謡、「ソウゼソリ」です。アリスさんの歌でお送りいたします。