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映画『彼女が死んだ』

#成川彩の優雅なソウル生活 l 2024-07-03

玄海灘に立つ虹


〇本日は、キム・セフィ監督の『彼女が死んだ』をご紹介したいと思います。主演はピョン・ヨハンとシン・ヘソン、韓国では5月中旬に公開されたんですが、じわじわと観客動員数が伸びて、120万人を超えました。こういうじわじわくる映画はだいたいおもしろいんですが、期待以上でした。SNSの世界と現実の世界の矛盾を描いたスリラーという、今らしい素材で作られた映画なのですが、監督は今回がデビュー作の30代女性で、キム・セフィさん、今後が楽しみです。


〇まずピョン・ヨハンが演じるク・ジョンテは不動産業を営んでいるんですが、他人の人生を覗き見するのが趣味という男で、人の家に留守中に忍び込んで中を見たりします。本人は悪いことという自覚はなく、仕事柄家の鍵を預かっているという立場を利用します。見られる方からすれば気持ち悪いですよね。一方のシン・ヘソンが演じるハン・ソラはインフルエンサーで、逆に不特定多数の関心を集めることを楽しんでいます。他人をこっそり見たい人と、他人に自分を見せたい人、対照的な2人が主人公です。
ジョンテは特定の一人でなく、たくさんの人をちょっとずつ覗き見するのを楽しんでいたんですが、ソラだけは特別関心を持って、かなり長い期間にわたってウォッチします。というのも、SNS上の彼女と、実際の彼女のギャップに気付いたからで、彼女の素顔を追いたい気持ちで尾行したり、家の中に入って物色したりします。
ソラは引っ越しするというので不動産屋のジョンテに鍵を預けていたんですね。韓国ではまだ誰かが住んでいる状態で、次の入居希望者が中を見ることがよくあって、住んでいる人が外出中でも入れるように不動産屋に鍵を預けます。

〇タイトルの彼女が死んだというのは、ソラのことで、ある日、ソラの家に忍び込んだジョンテは、ソラの死体を目撃します。だけども自分が忍び込んでいたことがばれるのもまずいし、殺人犯と疑われるかもしれない、というのもあって、通報せずにいったん出ます。他にも目撃者がいた方がいいと考えて、家を見に来たカップルと一緒に再び家に入るんだけども、なぜかさっきあったソラの死体がなくなっています。ここにもう一人の重要な登場人物が現れます。ソラは死体はないけども失踪事件として捜査が始まり、イ・エルが演じる女性刑事は最初ジョンテを疑いますが、だんだん事件の真相に迫っていきます。


〇ここからはネタバレ厳禁の内容になっていくんですが、ソラがどんな人物なのかというのがポイントで、動物愛護の活動をしているのをSNSにアップして支援金をもらったりしているんですが、リアルにそうなのか?ということです。SNSの世界と現実の世界の矛盾というのは、もはやみんなが身近に感じていることで、だからこの映画が「怖い」と感じられるんだと思います。主人公の2人は極端なキャラクターではあるけども、誰しも他人のことを知りたい、他人に自分を良く見せたいという欲求は併せ持っていますよね。
一番象徴的だった場面が、ソラがケガした猫を抱いて、涙声でかわいそうだと訴えているんですが、SNSで見る人には違和感なく見えるかもしれないけど、映画の観客としては、その様子を自撮りしているソラを見るので、すごく嘘っぽく見えるんですね。他にも、カフェで隣の席の女性が席を離れた隙に、その女性のブランドバッグを自分の物のように手に持って写真を撮って、SNSにアップします。SNSを見ている人はソラのバッグだと思い込むんですが、こういうのを見ていると、SNSで見ているものがどれだけ本当なのか、作られたものなのか、よく分からないなと思いますよね。写真も映像も加工できる時代になって、真偽を見極めることはどんどん難しくなっている気がします。

〇今年上半期は『破墓(パミョ)』『犯罪都市4』が観客数1千万人を超えた一方で、その他の映画はなかなか100万人超えるのも大変という両極化が見られます。そんな中で、じわじわと口コミで広がったこの『彼女が死んだ』の120万人突破はとても貴重な成果のように思います。まだ日本での公開については聞いていないんですが、ぜひ日本でも劇場で見てほしいと思います。

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