朝鮮時代の後期、韓国の弦楽器コムンゴの名人として知られるキム・ソンギさんは、ワン・セギという先生にコムンゴを習いました。ところが、この先生は、心の狭い人だったようです。演奏のアイデアが浮かぶと、弟子には教えず、夜一人でこっそりと演奏したのです。すると、キム・ソンギさんは、夜中密かに先生の家に行ってその音を聞いて記憶し、家に帰ってきて練習をしました。先生は、弟子が教えたこともないリズムを演奏するのが不思議だと思いました。そんなある日、一人で演奏をしていた先生は、ふと違和感を感じて窓を開けてみました。すると、のぞき見をしていた弟子が、びっくりして地面に転がり落ちたのです。怒られてもおかしくない状況ですが、先生は弟子の熱意を褒め、自分の演奏法を全て教えてあげたといいます。先生とは、単に知識を伝える人ではなく、自分より優れた弟子を見てやりがいを感じる人だと思います。今日の最初は、コムンゴの演奏をお聴きいただきます。コムンゴファクトリーの演奏で、「フライ・トゥー・ザ・スカイ」という曲です。
今度は、韓国の伝統芸能パンソリ、「水宮歌(スグンガ)」のお話です。水宮歌は、カメが竜王の病を治すために、ウナギの肝を求めて陸地に出るお話です。カメはウサギを見つけると、一緒に竜王のところへ行くよう誘います。ウサギは、海に行けば官職を与えると言われ、ついて行くことにしました。ところが、いざ行ってみると官職ではなく、肝を取られるところです。そこで、ウサギは、自分の肝は病気に効き目がよく、普段は高い木の上に干していると嘘をつきました。肝を取って戻ってくると言ったのです。そのお話に騙された竜王は、ウサギのために宴会を開くことにしました。今度ご紹介する曲は、この内容の歌です。この歌には、宴会に誘われた、あらゆる有名な演奏家の名前が次々と登場します。オ・ジョンスクさんの歌と、キム・チョンマンさんの太鼓で、「수궁가 중 수궁풍류、水宮歌のうち水宮風流」という曲をお楽しみください。
韓国には、コサという儀式があります。新しい家を建てたときや、車を購入したとき、商売を始めるときなど、お餅や果物、お酒などのご馳走を用意し神に祈りを捧げる儀式です。昔は、旧正月などの名節に、プンムルペという音楽団が家々を訪ね、コサの儀式を捧げることもありました。プンムルペのコサの歌には一定の形式があり、歌の後半では全てのことがうまくいくことを願う歌が続きます。このような歌を、最近は祈りという意味の「ビナリ」といいます。今日の最後にご紹介する曲は、「バンメギ・ビナリ」という曲です。子孫代々幸せであることを祈る内容です。ところが、この歌、祝福の内容でありながらも、メロディーはどこか切ない感じがします。神に祈りを捧げても、人生はそううまくいくものではないという現実を反映しているのです。それでは、今日の最後は、キム・ユリさんの歌で、「バンメギ・ビナリ」という曲です。